13

*****








「おい其処の野郎。話を聞かせてもらおうか」

「ひっ」



あれからサクラとヒナタと共に部屋で一夜を過ごし、夜が明けるなり早速聞き込み調査に入った。
キバと赤丸の嗅覚により導かれた先には、寂れた街外れにて一人のみすぼらしい姿の男。
サスケが突き付けた刀に怯えながら、その口から絶え間無く垂れる涎、開き切った瞳孔。
とても正気には見えない。



「その懐に見える薬の様なもんは何だ?」

「え、いいやこれは…」

「やっと押収物発見だな」



キバが得意げにへっと笑う。
つまり組織は黒、これから再び内情調査に戻らなくては。
自分たちは木ノ葉の里出身なのだと必死に主張するが、だから何だという話だ。
同郷だからといって酌量の余地は無い。



「……、お?」



ふと、男が目の色を変えた。
口元に帯びてくる笑み。
…思わず眉を顰めるほどに卑しい笑みが向く先は…



「その丸い碧い目、頬の三本線、…懐かしいねぇ」



ナルトだった。
急にニタニタ笑い出す男に、刀を突きつけていたサスケも顔を顰める。



「おいテメェ、聞いてんのか」

「ノコノコと復讐仇がやって来らァ。おい、オレの女房返せや化け物」



嘗て九尾に妻を殺られたらしい。
“復讐仇”“化け物”
男の口から放たれた言葉に思わず目を細める。



「そりゃ無理だってばよ」



死んじまったんだろ?そいつ、とナルトがニッコリ笑った。
逆上した男が怒鳴り飛ばす。
それを刀で牽制するサスケ。



「……。」



こいつが九尾の人柱力として迫害を受けているところは実際に見たことがなかった。
ただ昔ちらっと三代目の話で聞いた程度だった。
復讐仇だと、男はナルトに言った。
俺からすれば奇妙な話だ。
だって男にとっての復讐仇は九尾であって、ナルトではないのだから。



「あれだけ木ノ葉の人間を大量に殺しておいて、よくもノウノウと生きてられる…ッ!!」



外から来た俺は知らなかった。
木ノ葉には、ナルトに九尾を重ねる人間がいることを。
九尾へ向けるべき恨みを、ナルトへ向ける人間がいることを。



「オレも殺すかァ!?言っとくがオレだけじゃねぇ…!木ノ葉の人間の殆どを殺さなきゃこの憎しみは耐えねぇぜ!!ガハハハッ!」







木ノ葉を守るため、総隊長に?

…いいや、違う。

木ノ葉には、こいつを恨む人間が沢山いる。
そんな里を守る為に自ずから総隊長の座を望んだりするもんか。
たとえ大好きな三代目に頼まれたって…自分に恨みを向ける人間を護るなんて……俺ならできない。



「お前…!それ以上無駄口を叩くな!さもないと斬…「いい、サスケ」

「!」

「オレがやる」



サスケの刀に宛がわれたのはナルトの手。
男達に冷ややかな殺気が向けられる。




―――木ノ葉を潰すため。



そのために、こいつは…総隊長に。






「組織は黒だ。殺してもいいんだろ?」




…だけど、それならどうして俺を傷つけておいて…あんな悲しい目をした?

どうして化け物と呼ばせた?


どうして


この間の木ノ葉崩しで俺と共に戦った…?









*****








「お、おい!本当にオレを殺す気か…!?」



焦り始めた男に構わず、ナルトが一本のクナイを取り出す。
隣のカカシ先生に目を向けても止める気配はなかった。
この先の展開を予想して、思わず全身に力が入る。



―――シュン



ナルトの振り翳したクナイは目に捉える事も叶わない程に速く。
殺気も纏わずに鈍く光ったナルトの瞳は、凍てつく程に冷たく。

でも、今回ばかりはナルトのクナイにどれだけ惨く斬り裂かれようと、男に同情しようとは思わない。
今回ばかりは

だって…ナルトの方が可哀想だと思ったから。


―――ガキンッ!!


「「「!」」」



そんなナルトのクナイを遮るものがあった。
誰もが致し方ないと見守るだけに留まっていたその一撃を、食い止めた一本の刀。



「どういうつもりだ?」

「…」

「……銀弥」



キリキリと摩擦音を立てるのは、名前が振り翳した刀だった。
銀弥がいつも使っている、刃も鞘も銀色一色の刀。
名前の姿でその刀を手にしているのは、初めて見た。



「こいつ等を庇うのか?」

「…」

「相変わらず甘いな、お前。この先に待ってる監獄生活を思えば、今此処で殺してやった方が…」



―――ガッ





「ああ、そうだな」



地に崩れ落ちる男。
飛び散る赤。
赤く染まる銀色の刀。
白い頬に付着した赤い血に微々たりとも動かない名前の瞳は―――怒っていた。



「……っ」



名前の刀に切り落とされた男の頭部がごろごろと私達の足元まで転がる。
思わず息を呑んで悲鳴を堪えた。
人の死に際を目にしたのは初めてじゃない。
ただ、こんなに簡単に人が殺される瞬間を初めて見た。
そして…名前が人を殺すところも、初めて見た。



「そいつは、オレが殺るって言った筈だ」



ナルトの声が低くなる。
さっきまで感じなかった殺気が、少しずつ漏れ出す。
名前の表情は俯いていてここからじゃ見えない。
刀からポタポタと垂れる血の音がやけに響く。



「どうせ死ぬんだから、誰が殺ろうと一緒だろ」

「!」



じわじわと肌に纏わりついてくる殺気。
これはナルトじゃない―――名前の殺気。



「そういえば…前にやられた分、まだ返してなかったよな」

「…」



名前が顔を上げる。
目は射殺す様な殺気を帯びてナルトを睨み付けて。
血塗れの刀の切っ先をナルトに向けて、へっと嘲笑った。



「俺にも一回斬らせろよ…――― 化け狐 」






誰にも止められない最恐の喧嘩が始まった。






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