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紫鏡から脱した俺は一刻も早く此処から立ち去ろうと、元の姿に戻るために変化の印を組む…―――…が、術が発動しない。それ以前にチャクラが練れない。
肩で息をしながら一端立ち止まって冷静に状況を分析する。
此処に紫鏡様が来ているということは…他の鷹ノ召の連中が周囲を徘徊している可能性も無きにしも非ず。尚且つ今の俺は女に戻り、しかもこの銀髪は目立つため、安易に外に出るのは危険だ。



―――



「だ、誰…ッ!?」



一端身を隠すのが最善と考えた俺は、禿達の待機する部屋へと飛び込んだ。
そこには律と舞袖以外にも数人の禿たちがいて、俺を見ておろおろしている。
それを尻目に、俺は扉に耳を宛て、微かな物音に神経を張り詰めながら紫鏡の気配を探る。あいつの気配は恐ろしく薄いのだ。

(…追って、来ない)

理由は解せないが、どうやら追ってくる気配はない。
途端、力が抜けて床に座り込んだ。
変化の解けた俺を見て誰だと騒ぐ禿たち。
チャクラを再度練ってみるが普通の変化も出来やしない。



「と、兎伎、姐さま…?」

「……!」



力が抜けて座り込む俺を覗き込むように、しゃがんで俺へ声をかけたのは律。
その後ろに心配そうに見つめてくる舞袖。
二人以外の禿はいなくなっていた。



「心配いりません。みんな外へやりました」



まだ幼いのに、よく気が利く奴だ。
混乱する頭を落ち着かせつつ、そんな律の気遣いに思わず笑った。



「悪い、驚かせて」

「姐さま…、なんでしょ?」



銀色の髪。
それにさっきまでとは顔も少し違う。
よくわかったな、と褒めると俺の解けかかった帯を掴んで笑った。
ああ、兎伎の着ていた着物を憶えていたんだなと納得する。



「姐さま、忍者だったの…?」

「…………。」

「姐さま…?」



今になって自分が途轍もない恐怖に呑まれていたのだと実感した。
未だに胸が激しく脈打ち、乱れた息も整わない。
唇を噛むが唇すら震えている。
気が付けば俺は目の前の少女を抱き締めていた。

―――怖かった。

まさかあいつから逃げ切れるなんて、俺自身思っていなかった。
あいつがその気になればさっさと呪術で縛れた筈なのに、何故か逃がされた。
何故?意味がわからない。

―――ここはこういう事するお店でだろう?

…ほんとに、何考えてるのかわからない。




―――ス、


襖が開いて、ビクッと肩を震わす。
紫鏡かと思ったが、気配からしてあいつじゃない。
恐る恐る顔を上げると…………



「…白?」

「あなたは?」



白にそっくりな男がいた。




「兎伎様です、恋柏(コハク)兄様」

「!」



白の髪型をおかっぱ頭にしたら、きっとこうなるんだろうな、と思うくらい白に激似の男が驚いた表情をする。
しかも今、少女はこいつを“コハク”と呼んだ。
名前まで似てやがる。



「兎伎殿!?…私はここの忘八、恋栢(コハク)だ」



俺は返事も忘れて男の顔をまじまじと見つめる。
よく見れば顔も背丈も白とは少し違う。
白より少し切れ長の目。
白の瞳よりも少し薄い黒い瞳。
白よりも高い背丈。低い声。
(…白じゃない)
だけど、白が再び目の前に現れたような錯覚さえした。



「兎伎殿?」

「わ、悪い」

「怖い客にでもあたったのか…震えておられる」



未だ律を抱きしめたままの俺の手を、男はそっと握った。



「摘実には言わぬから。落ち着くまで暫く此処で休んでいけばいい」

「……」



にっこりと、優しい微笑みを向けられた。
…笑い方も白とそっくり。
恐怖に怯えていた筈の心臓がトクンと鳴った。





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