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「いいのォ。やっぱり火の国の女じゃのォ!」
鼻歌を歌いながら、今から色街に出向くのだろう自来也が金を数えている。
昼間の綱手情報収集の収穫は一切無し。
とはいえ今夜の任務は三つ全てオレの手に入った。
これだけでも良しとする。
「お前はどうしとるんじゃ?色街には行っとらんのだろう?」
「別に…あんな店行かなくても女くらい直ぐ寄ってくる」
殺気を飛ばしてくる自来也を鼻で笑いながら暗部服を纏う。
「お前は分かっとらん!そこらで引っ掛ける女と色街の女は全く別物だぞナルト。あの色気の出し方、極上の奉仕…!男ならああいう女も知っておくべきだッ!」
「…生憎、金払ってまで女を求める概念がオレにはねぇんだよ。一人でやってろ」
「カァアア!!ちんちくりんの餓鬼が生意気言いおって…!たかが十二歳の一物なんかで女を喜ばせはせんだろうがのォ!」
「高等変化があるだろ」
「ケッ…。…お前、西華路の都世庵を知っとるか?」
「…都世庵(トヨアン)?」
「華路で一番の高値の女がおる店じゃよ。そうかそうか、知らんか!前々から評判を耳にしておってのォ、少し値が張るが、儂はちょっくら行って来るかのォ!!」
金を数えてたのはその為らしい。
女に貢ぐなんてくだらない。
呆れを通り越して哀れに思えてくる。
「ナルト!銀弥に会ったら宜しく言っておけのォ!」
鼻の下を伸ばして手を振りながら爽快と出ていった自来也。
静まり返った部屋で一人溜め息を吐く。
…西華街で一番の高値の女、か。
ふと銀弥の事が頭を過る。
「同じ女でも、まるで別物だな」
オレを見下して笑うあの下衆女を思い出し、鼻で笑った。
*****
自来也様が用意していた旅館へ戻り、誰も居ない事を確認して中へ入る。
あの爺さんの事だ、また如何わしい店に出掛けているんだろう、なんて…今まで如何わしい店に居た俺に文句は言えないが。
各部屋備え付けの風呂場で香の匂いを落とす。
一息吐いてから銀鳥を呼んだ。
「…。」
―――紫鏡様に見つかってしまった。
そんなこと、なるべく銀鳥には言いたくなかった。
白銀一族がどんどん近づいてきている証拠だ。
銀鳥のことだからきっと心配する。
「銀鳥…」
「乗れ」
「え?」
渋々ながら紫鏡の話を一通りした俺に、銀鳥は何も言わず背を向けて言う。
「お前を乗せて飛びたい」
紫鏡が大蛇丸についた。
つまり、これで一つの謎が解けた。
大蛇丸が俺の“宇焚”という名を知っていたのは、紫鏡の所為であるということ。
幼少期を共に過ごした紫鏡様はもちろん俺の“宇焚”という名を知っているのだ。
大蛇丸は黒海から聞いたと言っていたが、あれは恐らく嘘だと断定していい。
―――つまりは、黒海は大蛇丸の元にいない可能性が高い。
じゃあ、一体どこにいるんだよ、あいつ…
「死ぬ前に、黒海に会いたかったんだけどな…くそ…」
「直ぐにでも死ぬかのような言い方はやめろ」
「正確には“死ぬ”じゃなくて、紫鏡に“捕らわれる”だけど…同じようなもんだ。あいつから逃れられるとは思ってないよ。あいつが動き出したら、もう逃げ場はない…」
「…………。」
「せっかく霞尢の呪印から解放されて自由になったと思ったのにな…」
空をゆっくりと飛ぶ銀鳥の背に顔を埋めて呟く。
「吾は今、幸せだがな」
「!」
予想もしない返答に、俺は顔を上げて銀鳥を見た。
「今こうしてお前を背に乗せて空を飛ぶ事、これこそが吾の自由。他に望むものは何もない」
「…」
「これを守る為なら、命を賭して戦おう。お前と共に」
「!」
偶に俺は気づかされる。
銀鳥は妖魔―――妖魔とは、欲を一つしか持たないという。
“俺を背に乗せて空中散歩をすること”これが銀鳥にとって最高の幸せらしい。
でも人間である俺は、一つを手に入れたら、また他の何かが欲しくなる。
今手の中にある幸せに気付きもしないで。
「……恰好良い事言ってんなよ、馬鹿やろう」
共に戦おう。
今の幸せを護るために。
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