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「ごめんなさい」

凛とした声だと思った。
目の前で、やや下に視線を向けた彼女の声は、まるで透き通ったかのように俺の胸に飛び込んで、浸透して…
弾けた。

「えっ?」
「ごめんなさい、」

聞きなおすと、彼女は先ほどと同じ言葉をそっくりそのまま繰り返した。
ああ、やっぱり凛とした声だと思ったけれど、2回目のそれは、さっきよりも酷く心に突き刺さった気がした。

「あーえっと、君の言葉の意味は、あれだ」

信じたくなかった。

だって、俺は、今まで絶対にそんなこと無かったし、寧ろ女の方から近寄ってきたのに!

俺の口がだらしなく開いているのを見て彼女は一瞬吹き出そうとした風に見えた。けれど瞬きをひとつする間に、いつもの様に何にも興味が無さそうな表情に戻っていた。

それから彼女は、その表情を崩さないようにしながら、ぴしゃりと言った。

「私、犬って好きじゃないの。なんか、怖い」





「傑作だな」

ジャームズが言った。「傑作だ。腹がよじれそうだよパッドフット!犬が嫌いだってさ!」

シリウスはイライラとしたような表情を浮かべたけれど、何も言わずに談話室のソファーを軽く蹴った。座っていたピーターが吃驚したように飛び上がったのを、ジェームズはまたニヤニヤとした顔で見つめていた。

「それで」

僕は口を出した。

「君、振られたのかい?シリウス」
「ムーニー、そんなストレートに言ってやるなよ」

ケラケラとジェームズが笑って、ピーターがびくりと身構えるのを見た。(多分ピーターはシリウスがまたソファーを蹴り飛ばすつもりだと警戒したのだろう)

「ああ、こんな屈辱的な気分は初めて味わったさ」

シリウスは心底面白く無さそうな顔をして、ピーターの期待通りにソファーをまた蹴った。そして、またピーターは飛び上がった。

「ていうか、パッドフットってユズが好きだったんだな」
「僕も、し、知らなかった」
「そりゃ、俺はプロングズみたいにストレートに押さない奴だからな」

僕がくすりと笑うと、今度はジェームズが面白くない顔をした。

「そういえば聞いてくれよ、この前スニベルスの奴がさ――」
「――だから…――」
「…ははは、そりゃ最高だ!」

そこでジェームズがスネイプいじめの話を持ち出し、それにシリウスが食い付いたので、僕は持っていた本へと視線を落とした。


本当は、僕知ってたんだけどね。
とはとても言えなかった。

そりゃジェームズはエバンズ一直線で周りが見えないところがあるし、ピーターは全体的に疎い。
けれど少しでも周りに目を向ける奴が四六時中シリウスと一緒に居たら、たちまち気づいてしまうだろう。

(だって、シリウスって気がついたら彼女の事見つめてる)

それにしても、僕は以外だった。

シリウスが、"動物もどき"だって事を彼女に教えたこともそうだけれど(多分、気を引くためにそうしたんだろう)、

それと、彼女は――ユズは、恋愛そのものに興味が無さそうに見えた。普段はエバンズや他の女の子と一緒に居る、ただのグリフィンドール生だ。

(でも、)

最近彼女がシリウスを見る目は少しだけ――ほんの少しだけれど、女の子の目をしていると僕は思った。

(多分、)

シリウスが顔が良くなくて、先生の手を焼かせない、問題児からかけ離れた超の付くほどガリ勉な優等生で、他の女の子に全く人気がなかったらユズはそんな事を言わなかっただろうと推定してみる。


だって彼女がこの前エバンズに「私、猫よりも犬の方が好きだわ」と嬉々と話すのを聞いたばかりだもの。

僕はもう一度、ジェームズと楽しげに悪戯の話をするシリウスを見た。
あきらめるつもりは無さそうだなあと、なんとなく分かった。

僕は本に視線を落とした。

(それなら、)


見つけてごらんよ
(彼女が君を好いてる事)
(なんか悔しいから、)
(僕からは絶対に言わないけれど!)


10/12/28


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