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「あんた、絶対イイ死に方出来ないよ。」

彼は、「そうだね」とだけ答えた。



目の前で笑う彼の愛はとても大きいスケールのもので、そして、とても歪んでいた。
そんな彼に他の人間と同じ愛を注がれる、他の人間と同じ価値ほどの私が、彼に対して注ぐ愛は、彼に比べれば小さく、それでも歪んでなどいなかった。

彼がキスをくれれば嬉しかったし、彼が愛を囁けば照れくさかった。
彼が他の女にそうしているのを知ったら悔しかったし、寂しかったし、妬ましかった。


彼は、人間を愛している。それは男だろうと女だろうと、老いていようが若過ぎようが関係ない。
つまり、彼が愛しているのは"私"ではないのだ。

分かっている、分かっていて近づいた。
苦しくて、胸が張り裂けそうな思いをすると知っていて彼に恋をしたのだ。


予想よりもそれは辛くて苦しくて。




「今日は竜ヶ峰君とね・・・」
「うん」



「今日は、園原杏里ちゃんって子と・・・」
「うん」



嗚呼いっそ人間なんて消えてしまえば良いのに。
この世に彼と私しか居なければ良かったのに。



そんな事、ありえないと分かっていてもそれを願って願って。
次の日目を覚まして、昨日と何ら変わり無い世界に絶望する自分があまりにも滑稽だった。



「臨也」
「ん?」
「私の事愛してる?」
「ああ、愛してるさ」
「リュウガミネミカド君は?」
「愛してるさ」
「ソノハラアンリちゃんは?」
「愛してるよ」



何度願ったって、目の前の彼は私を見ていないのだ。

「あんた、絶対イイ死に方出来ないよ。」

その事実には、とっくに気付いているのに、気付かないフリをする私はこの上ない馬鹿だし、そんな私が愛している彼もどうしようもない馬鹿なのだ。

「そうだね」
「いいの?死ぬの辛いんだよ?」
「死ななければいいのさ、俺はずっと人間を観察して愛でていくからね。」

「生物には寿命というものがあるのに?」
「ユズは俺の考えに否定的だね。」

「臨也」
「何?」
「愛してるって言って」

「『アイシテル』よ。」


私が愛しているのは彼で、彼が愛しているのは人間そのもので。
決して噛み合わない私達の気持ち。




それでも君を、愛し続ける?
答えなんて、彼と出合った瞬間から決まっている。


「私も臨也が好き、愛してるよ」


彼の人間への愛が、いつか自分ひとりにだけ向いてくれれば。なんて叶う筈の無い夢を私は見続けるのだろう。



10/09/10
お題「確かに恋だった」からお借りしました。


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