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あれから何度もあのアジトには遊びに行った。
サカキ様の子供、シルバー様のお世話係なら誰にも負けない気がするし、シルバー様も私の事を好いている……と思っている。



あの出会いの日から2年が経ち、少しだけ背が伸びた。
母からはポケモンの知識を。父からは実践での知識を教えられた。全て、将来サカキ様に仕えるために。

10歳の誕生日に親からイーブイを貰った。従順で凄く可愛いやつ。
そいつと外で、くたくたになるまで遊んでから、家に続く曲がり角を曲がった瞬間、信じられない光景が目の前に広がっていた。



「離せ!!」
「離すものか。ロケット団には聞きたい事がいっぱいあるんだ、さっさと連れて行け」
「はっ!」



警察に拘束されている両親の姿。抵抗をする父親は家までの曲がり角でイーブイを抱えたまま動かない私を見て「逃げろ」と目で訴えた。

逃げようにも、思うように足が動かない。まだ10歳の私には、いささかショックが大きかった。どんどん集まる野次馬のおかげで、警察に私が見つかることは無かったけれど、両親が連行される姿を終始目にすることになった。
2人を乗せた車がどこかへ走って行って、野次馬もまばらになった。それでも少し残って井戸端会議をする人達を追い払う警察の2人組が、ダラダラと話をしているのを聞いて、それからやっと足が動いた。

「あの夫婦には子供が居るらしい」
「じゃぁ、ここで張り込んでいたら帰ってくるんじゃないか?」
「子供だからな。ペラペラいろんな事喋ると思うぜ」



走った、走った。
息が切れても、心臓が張り裂けそうなぐらい痛くなっても、走った。
向かう先は、あのアジト。

知らせなければ、親が捕まってしまったことを。



「ああ、リゼちゃんじゃないか。どうしたんだい、こんな時間に?」

アジトの入り口には、いつもここに来るときに会う、顔見知りのしたっぱさんがいた。
日も暮れ街灯が点き始めたこの黄昏の時間に、息を切らせてやって来た私に、不思議そうに近づいてきた。

「お、お、じ…さんっ……サカ、キ様にっ……!」
「? ……サカキ様に?何かあったのかい?」

「おとうさんが……おかあさんが、け、さつに!」

そこまで言った所で、膝からガクリと崩れ落ちた。どうやら足が限界を迎えたらしい。胸に抱いたままのイーブイが、急な高度差に驚いてか私の体からするりと抜けた。

「あの方々が…………それで、リゼちゃんは一人で……。」
「おじさん、はやく、おねがい、サカキさまにいって」
「…………。」
「おじさんっ!!!」
「……分かった。」

おじさんは座り込んだまま動けない私にそう言ってアジトの中に入って行った。
そこから10秒もすれば立ち上がることが出来た。もう5秒待てば歩けるようになった。私は、ノロノロとおじさんの後を追いかける。まって、おじさん。私も行く。遠くなった背中にそう叫んだ。振り返ったおじさんの表情の意味は、疲れ切った私の頭では、理解をすることは出来なかった。



「どうした。」

ふんわりしたソファーに座って(昔、1度だけ座ったことがあるのは内緒)、私が1人で訪問したことに対して驚くサカキ様。

「サカキ様、リゼちゃんの両親、あの方々が捕まったらしいです。」
「……!」

訪問してきたことよりも、もっと驚いたように目を見開いたサカキ様は、私に「本当か?」と尋ねた。

本当です、私がサカキ様に嘘を吐くわけ無いじゃないですか。
肯定の頷きをコクコクと見せると、彼は「何という事だ……」と額に手を当てた。

「どうしますか、サカキ様」
「あの二人の事だ、我々の情報は絶対に漏らさないだろう。」

しかし、優秀な部下を1度に2人も失うとは……とサカキ様は悔しそうに言った。
それを見て、小さな黒い感情が少しだけ沸いたのを実感した。
いいなあ、お母さんもお父さんも。サカキ様に愛されてたんだね。……私も、愛されたいなあ。
勿論、お父さんもお母さんも大切だ。それを私から、何よりサカキ様から奪った警察を、正義を、許せない。



「サカキ様」
「ん……、ああそうだ。リゼ、お前も追われている身だろう。しばらくはここに身を隠せ」

「そうじゃなくって、サカキ様。私、ロケット団に入りたいです」



したっぱのおじさんが目を見開いたのを覚えている。
サカキ様が驚いてソファーから立ち上がったのも覚えている。

「ふむ……そうか、優秀な親の血が流れた、お前に期待するのも悪くはないかもしれん」

サカキ様の言葉に私が笑顔になったのも、覚えている。



こうして私はロケット団に入団する事となった。足元で、不安そうに私を見上げるイーブイにも、私はにっこりとした笑顔を見せた。



理由は二つ
(1つは神様に愛されるために)
(1つは正義に復讐するために)



10/02/14
10/07/18
15/03/15 修正

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