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「そんな、……戻れないだなんて言わないで下さいよ!」

サカキ様の服を掴んで懇願する。そういえば、サカキ様に触れられたことはあったけれども、自ら進んでサカキ様に触れたことはなかったっけ。と現実逃避混じりの思考が頭を過ぎった。
けれど、何を言おうとサカキ様は首を横に振るばかりで、私の、ロケット団の願望は打ち砕かれるばかりだ。

「どうして、」

我慢していた寂しさとか悔しさとか、絶望感なんかがついに私の胸の中で弾けて溢れだした。表面張力の働く許容量なんて簡単に突破して、重力によって地面へとぼたぼたと零れる。こんな無様な姿、サカキ様にだけは絶対に見せたくなかったのに。

「……私は、」

頭上から声がした。けれど、私は顔を上げることなんて出来ずに、地面とにらめっこを続けていた。

「この3年間、あのトージョウの滝で修行を続けていた。」

ポケモンの実力、そして私自身のトレーナーとしての実力。3年もの間修行した私は、今まで以上の自分の力を信じたのだ。

そう言ったきり、サカキ様は暫くの間黙りこくってしまった。その間に、顔を上げると、サカキ様は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。多分、私もそんな顔をしているだろう。だって、私はその後の結末を知っているのだから。

「そして、今日……お前達の流すラジオを聞いた。お前達が、私を必要としている。今が好機だと、私も思ったのだ。」
「……それ、で。」
「私はすぐにコガネに向かう準備をした。……しかし。」

サカキ様が一段と声のトーンを下げた。それを聞いて、私の胸がぎゅうと締め付けられて悲鳴を上げた。

「出発しようとした時に、セレビィを連れた二人組の子供が現れ、私の前に立ちふさがった。」

ロケット団の野望を根本から阻止する為に未来からやって来た、ヒビキ君とコトネちゃんだ。先程対峙した、外見こそ変わらないけれど、どこか大人な雰囲気の彼等。二人の言っていた事は正しかったのだ。
つまり、二人がサカキ様と対立した結果も……正しい筈。

サカキ様は、苦い笑いを浮かべて呟いた。

「彼等は私を止めると言った。……そして私は負けた。完敗だった」
「っ、」
「私の修行に明け暮れた3年間はなんだったのか……3年ではまだ足りないのか? どうして子供ばかりが私を邪魔する? …疑問ばかりが頭を巡るのだ。」

そして、そう続けたサカキ様は私の頭の上に大きな手を軽く乗せた。7年前。初めてサカキ様と出会った時と何ら変わりないその優しい手に、また涙が溢れそうになったけれど我慢した。

「……私は、これ以上強くなる事は出来ないのかもしれないな。」
「そんな事……っ」
「リゼ。」

優しく、ゆっくりとした口調でサカキ様は私の名前を呼んだ。なのに、私の口からは返事の声が出る事は無く、嗚咽混じりの吐息が漏れるだけだった。



「お前は、大きくなったな。」



成長途中の子供と
限界を感じた大人



10/11/07
15/03/17 修正

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