Pkmn | ナノ

Top | 06/02 | Main | Clap



Nは考えてることがよくわからない。それ故に、彼が向かう場所なんて、私には想像がつかない。
彼が私の知らない大きなポケモンと一緒にイッシュを去ったという噂を、モミジみたいな頭をしたおじさんから教えてもらったけれど、果たしてそれは本当なのだろうか。
もしかしたらイッシュのどこかをほっつき歩いているのかもしれない。それとも本当にどこか遠い、私が一生のうちでも行かないような所へ行ってしまっているのかも。

Nと私は一応付き合っている間柄。
数ヶ月間行動を共にした中で、彼が良い人なのか悪い人なのかの区別はつかなかったけれど、モミジのおじさんが言うには、どうやら悪い人たちの中のリーダー格の存在だったみたい。
それを聞いても、彼に対する思いは消えることはなく、寧ろ、姿を晦ませてしまった今、Nが善人だろうが悪人だろうが、そんな些細なことはどうだってよかった。
私が知りたいのは彼の行方だ。

冷たく凍え、既にほとんど感覚の無い手をこすり合わせた。
今日は、私とNの想いが通じ合った日。あれから、もう何回季節は巡回しただろう。
彼が行方知らずになってから、モミジのおじさんに会った年からさえ、何年たったのか定かではない。



「リゼ」

背後から、テノールの音が耳に届いた。
ああ、懐かしい。振り返りたくなる衝動を堪えて、呟いた。

「今年も見つけられちゃったね」

今度は見つけられないと思ったんだけどなあ。こんな奥地にまで、よく見つけたものだ。ジャイアントホールの隠れ穴、その一番奥に座り込んでいた私は、ゆっくりと振り返った。
目に入ったのは淡い緑色。そしてわずかに浮かべた笑顔。彼のその微妙な表情が笑顔を表すものだと理解したのは、彼と関わりを持ち始めてから半年だった。

「久しぶり、リゼ」
「どうやって見つけるの?」
「また髪の毛伸びた?可愛いね」

私の髪に触れようとする彼の手を掴んでとめた。

「質問に答えなさい。」
「…数字が教えてくれるだけさ」

去年君がライモンシティの遊園地の中に紛れ込んでいたのも。今年君がここにいることも。全て計算のうち、星の巡り合わせみたいなものだよ。
と、彼は言った。意味がわからない。

「じゃあ、私が来年向かう場所も?」
「もちろん決まってるさ」
「どこ?教えてよ」
「言ったらリゼは場所を変えるじゃないか。勿論、そうなった時にリゼが次に向かう場所も、計算で」
「ふざけないで!!!!」

穴の中で声が大きく響いた。

掴んだままの彼の手を、思い切りこちらに引っ張ると、中腰になっていた彼の体はバランスを崩し、私の横へ倒れた。柔らかい草や落ち葉がクッションになって、Nを受け止める。
すかさず両頬を抑えて、無理やり唇を重ねた。

「1年に1度きりだけ会いにきて!七夕じゃあるまいし!」



そう。
どこにいるのか、何をしているのかわからないNは、1年に1日だけ、私との記念日にだけ、私の目の前に現れた。

「どうしてどこに逃げても見つけるのよ!」

どこに隠れようと、彼は目の前に現れた。人混みの中だろうが、地下水路だろうが、競技場の観客席だろうが。人里離れたフィールドにある隠れ穴も、例外ではなかった。

「なんなのよ、あんた」

それが嬉しくもあり、苦痛にもなった。この1日のために、私は1年間ずっと孤独に彼を思い続けなければならなかったのだから。

「こっちは…っ!!」

忘れようったって、忘れられる訳がない。細い腰、吸い込まれるような瞳、柔らかい唇、頭脳明晰なことが伺える口ぶり、そして、ポケモンへの無償の慈愛。全てが私を捉えて離さない。
なのに。どうして1人で何処かへ行ってしまうの。

「さみしいよ…」

口から飛び出した本音は、Nには届いたのだろうか。一連の出来事に、珍しく頭がついていかなかったのか、Nはいつもの無表情ではなかった。目は大きく開いて、口も少し開いている。こんな表情、見たことない。
ぐにゃり。そんな彼の表情がすぐに崩れてしまったのは、彼のせいではなく、私の目から溢れる涙のせいだ。彼の端正な顔が歪んで残念。でも、私の涙は彼のせい。責任があっちやこっちや行き来する。なんだか頭がごちゃごちゃだ。

「ばか。」
「ごめん」
「ちが、…謝ってほしいんじゃなくて」
「…なくて、何?」

冷たくて長い指が、私の涙を全部すくいあげた。再び彼の顔がまともに見えるようになって、その時にはもう、驚いたような表情ではなくて、いつものほんのり暖かい笑顔のNだった。

「言って、リゼ」
「…なんでもないの。会えて良かった」

そっか。と呟いたNは、リゼの頬に手を添えて、自分から口づけをした。声が悲しそうに聞こえたのは、きっと気のせい。

「好きだよ」
「知ってる」
「愛してるよ」
「それも、全部」

知ってる。そう言う代わりに、彼の体を強く抱きしめた。消えてしまわないように、逃げてしまわないように、お願いだから、どこにもいかないで。私を1人にしないで。
言わなきゃ伝わらないのは、何回もの繰り返しで痛い程にわかっているけれどそれでも、私もNと一緒に連れて行って欲しいと懇願する事は出来なかった。今年も、きっと言う機会はないのだろう。ヘタれている自分に嫌気がさす。私の気持ちを知る由もないNは、嬉しそうに私の髪を撫でるだけだった。

明日になったら、Nはまた何処かへ消えて行ってしまう。そして1年後の今日にはまた、彼は私に会いにきてくれるだろう。
君が僕に会いたいと思う限り、僕は君に会いに行くから。腫れぼったくなったまぶたにキスを落としながら、Nは囁いた。
そうじゃないの、私が望んでるのは、そんなんじゃなくて。言わない、言えない。神様のばか、私のばか、Nの――。



n回目のanniversary
いつか私も、貴方と共に



なんだか、考えるのも疲れてしまったし、今日一日は彼との愛に溺れよう。
私と彼の時間は、たったの24時間しかないのだから。



12/12/14


[ BACK ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -