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※悲恋



「ごめん」

その一言で、一瞬で。私の数年かけた想いは崩れてしまった。

「俺、さ。やっぱ、いきなりそんなこと言われても…」

本当にごめんね。ごめん。謝罪の言葉を次々と口から零して、チェレン君は眉を下げて困った表情をした。その言葉を聞くたびに、その表情を見るたびに、私はどうしたら良いか分からなくなって。だけど心の隅で、私だってそんな困った表情したいんだよと、思った。

「・・・そっかあ。」

でも、この状況を作り出したのは私で。悪いのは私で。

「ろくに話したこと無い人から急に告白されたって、困るよね。」

私がこの気持ちを隠し続けていれば。チェレン君がこんな表情をする事も無くて。私がこんなに悲しい気持ちで心を塗りつぶされることも無くて。

「・・・ごめんね。」

だから謝るのは私のほう。ごめんね。急に告白しちゃってごめんね。私なんかが貴方を好きになってごめんね。ごめんね、ごめんね。

「ごめんは、僕の方だよ」
「ううん」

嗚呼、1度だけ願い事が叶うなら。過去に戻って、チェレン君へのこの気持ちを押さえ込んで。いつの日か、良い思い出として消えてなくなるまで、耐えて。耐えて。…そうすれば、良かった。

ぼんやりと目の前が歪んで。次いでほろり、目から何かが零れた。

「ごめ、」

それが、涙の所為だと気づいた私が、服の袖でゴシゴシとそれを拭えば、クリアになった視界には、あわあわと狼狽するチェレン君が映った。私が泣いてしまった事について慌てているのだろうか。…勝手に泣いてるだけなのに。



じゃあ、さ。
チェレン君の唇が開いて、彼が言葉を紡ぐのを、私はボンヤリと見つめた。

「…僕達これから、仲良くなろうよ。…今回のことは、その。…忘れて、さ」
「……え、」

私の指先が、ピクリと動いたのを感じた。彼なりの、考えて考えて考えた末にだした結論なんだろう。当たり障りの無い言葉。
けれど振られた側としては、無かった事にしようというその言葉が、研いだナイフのように心に突き刺さる。



「…………無理、だよ。」

擦れた声は、どうやらチェレン君の耳に届いたらしく、彼の表情が歪んだ。
だって、そうじゃない。



Can't reset it.
無かった事になんて、出来ないよ。



どんなに無かったことにしようなんて言っても、どこかで絶対にその事を思い出しちゃうよ。
口をキュっと一文字に閉めた彼は。チェレン君は、多分その事を分かってるんだ。

…嗚呼、私が彼を好きにならなければ。
或いは口に出さなければ。もう少し彼に近づこうとしていれば。順番を間違わなかったら。こんな、誰も救われない結末を見ずに済んだのに。

「……ごめん、ね。」

何度目かの謝罪の言葉が、冷たい空間に響いた。



10/11/28


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