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夏は暑い!
そんな分かりきった事を、なんて思うかもしれないけれど、やっぱり暑いこの季節。テッカニンの鳴き声はあちらこちらで響き渡り、虫取り少年や短パン小僧は日焼けも気にせずに走り回る。
私はというと、クーラーの効く自宅で、のんびりと…悪く言えばダラダラと、毎日を過ごしていた。テレビがイッシュ地方で有名な(…らしい)ヒウンアイスの特集をやっているのを、ソファーに座るのも億劫で、床に寝そべりながら眺めていると、突然そのときはやってきた。

PiPiPiPiPi!

「う、わぁぁっ!?」

近くにおいていたポケギアが着信を私に知らせた。けれど、それはあまりにも突然で。(自慢じゃないが、私は交友が多い方ではないので、ポケギアが鳴るなんて滅多に無い)

「だだだ、誰よ吃驚させ……って、え、えっ、マツ、マツバ!?」

私を吃驚させた本人は、私に電話をよこすなんて有り得ない人だった。ああ、どういうことなの。暑さの所為か、混乱する頭の回線のまま、応答ボタンを押す。ピッと短い音が鳴って、私と彼のポケギアが繋がった。

「もっ…もしもしッ?」
『ああ、もしもし?どうした、随分と慌てた様子だな』
「どうしたはこっちの台詞だし!えっ、い、いきなりどうしたの」

ここまで来たら分かるかもしれないけれど、私はマツバが好きだ。大好きだ。ヒウンアイスよりも勿論好きだ。機械ごしの声の筈なのに、彼の声は私の混乱した頭をさらに引っ掻き回す。自分で自分が何を言っているのか分からない、とはまさにこの事。

『いや、俺も今テレビ見てたんだけどさ、ヒウンアイスのやつ』
「あ、うん、私も見て…たけど…?(俺も?)」
『アイスが食べたくなったから、お前アイス買って俺の家来いよ』
「えー…なにそれ私パシリじゃん、完全にパシリじゃんか。…ハヤト使いなよハヤト」

頬が緩むのを、声が弾むのを必死で堪えながら、床の上をゴロゴロと転げ回る。傍から見ればおかしい人間そのものだけれども、どうせ電話越しだ。相手に分かるわけが無い。

『ハヤト呼んだら暑苦しいだろうが。お前が良いんだよ』
「! …し、仕方ないな…じゃあ、行ってあげる。ガリ●リ君で良いよね?」
『2本な』
「…はいはい。すぐ行く」

はぁとわざとらしいため息をつきながら私は通信を切った。…とたんに我慢していた頬が緩んだ。嗚呼、マツバの家に遊びにいけるなんて!しかも向こうからのお誘いときた!
スキップでもしそうな勢いで(したら最後、足の小指をタンスにぶつける事は見えているので我慢)、玄関を飛び出した。サンサンと真上で照る太陽もなんのその! 急いで近くのフレンドリーショップに駆け込み、ガ●ガリ君を3本購入して、また外へ飛び出す。アイスから漂う冷気を、たまに手の甲に当てたりしながら、マツバの家までやって来た。

ちなみに、この間10分。なかなかの好タイムだ。
ドキドキと跳ねる心臓をシカトして、彼の家のインターホンに手を伸ばす。

ピンポーン…−ン

呼び出し音が、インターホンから、そして家の奥から微かに、二重で聞こえた。数秒もすれば静かな足音が聞こえてくる。私の心音はバクバクと音を立てて暴れまわった。(こら、いい加減、静かにしてってば)

玄関の引き戸を開けたのは金髪のイケメン、マツバ
……ではなく、

「ゲンッ!」

彼の相棒のゲンガーだった。そして、ゲンガーに次いで出てきたのが、この家の主人である、そして私を呼び出した当の本人マツバだった。そして私に一言。「やっと来たか…遅い」

そのまま彼は回れ右をして、家の奥へと行ってしまった。…彼なりの歓迎の言葉だろうか。と、いうか、そうだと解釈しなければ、私は彼と友人のポジションにこれから先も、居続ける事は出来ないだろう。

「…お邪魔しまーす」

マツバの背中に言葉を投げかけて、靴を脱ぎ、居間の方向へと駆ける。早くしないとアイスが溶けてしまう。それはすなわち、マツバの機嫌を損ねてしまうという事を意味するわけで。



前に来た時と全く代わり映えしない居間。
彼がアイスの特集を見たであろう、私の家に在るものよりも大きなテレビはまだ点いていた。丁度、テレビは天気予報をしていたところで、もうしばらくするとここら辺は雨が降るらしい。(そういえば、遠くの方に暗い雲があったような)
天気予報をぼうっと見ていると、マツバが台所から、お茶の注いであるコップを二つ持ってきてくれた。マツバのこういうさり気ない気遣いが好きだ。本人には死んでも言ってやるつもりはないけれど。

「ん、買って来たよ。マツバは2本ね。」
「…どーも」

袋の中からアイスを2つ取り出して、マツバに渡す。渡すときに指が触れてキャッ! …みたいな展開を期待してみたけれど、マツバは私の指に触れることなく、器用に袋を受け取った。なんだか少し、悔しい気もする。
まあ、期待して期待通りにならない事なんて、今まで生きてきた中で沢山沢山あるのだから、いちいち気にしていられない。というか、そんな事気にしてたら私の分のアイスが溶ける!!

「「いただきまーす」」

私とマツバは、二人してアイスを口にくわえた。さわやかなソーダの味が、口の中で広がる。冷たい、おいしい。
ちらりと横目でマツバを観察すると、彼も美味しそうにアイスを食べていた。無表情の中に垣間見れる、その幸せそうな表情が、アイス2本分で観察できるのだから、こんなにおいしい話はない(アイスだけに)。

彼が2本目のアイスに手を伸ばして、それをゲンガーが羨ましそうに見つめていて、私がアイスを食べ終わって、マツバも、すぐに2本目のアイスを食べ終わって。
食べ終わったからといって、これといった話がない私達は、ただぼうっとテレビを見つめていた。

たまに彼の横顔を盗み見るのだが、そういう時は決まって彼に気付かれる。

「…何だよ」
「べっつにー」

そうしてまた、二人ともテレビへと視線を向けるのだ。時間だけがゆるりと過ぎる。こののんびりとした時間が、私はとても好きだ。

ハヤトや、アカネちゃんとは過ごせないであろう、この時間は、夏の一日をあっという間に終わらせる。日が傾いて、空が暗くなってきたのを見て、私は腰を浮かせた。そろそろ帰らなければ。マツバも私が動いたのを見て、見送りに来てくれるのだろうか、彼もすっくと立ち上がった。

「じゃあ、そろそろ」
「おー」

玄関で、靴を履いて、外へ向かおうとしたとき、マツバの手が頭に触れた。「リゼ」
振り向くと、終始無表情に近かった彼の顔が、微笑みを浮かべていた。

「アイス、ありがとな」
「えっ、う、うん…」

(マツバがお礼なんて、また珍しい…ああ、そういえば今夜は雨だとか、天気予報が言ってたんだっけか)

マツバの何時もと違う言動にどぎまぎしながら、彼の家を後にする。10歩進んだところで振り向けば、既に玄関に彼の姿はなく、ゲンガーがブンブンとこちらに手を振っていた。
ちくしょう、まだ居るかな なんて期待を持った私が馬鹿だったよ!…でもゲンガーが可愛いから良しとする。

どこまでもさっぱりしているくせに、どこか甘く感じてしまう。彼はまるで今日食べたアイスの味のようだ



ソーダ味の彼



…なんて考えたところで、大粒の雨が頭のてっぺんにぶつかったので、私は慌てて家まで走った。



11/07/25


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