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言ってしまった、言ってしまった!
事の重大さというのはじわじわと理解できるもので、私は廊下を早足で歩きながら、顔を青ざめた。…今月の給料、減らされても文句は言えないかなぁ。
元々任務失敗の後処理等で差し引かれて、他のしたっぱと比べると雀の涙ほどしか貰えない給料を更に減らされるとなれば、今回の行動はあまりにも軽率だったかもしれない。

(幾ら慕う相手を悪く言われたとしても…。)(でも、)

「リゼ」
「!」

突然、後方から私の名前が呼ばれた。心地良いバリトンの声は、私が今現在心に浮かべる人の声で。

「ラムダ様」

振り返ると、彼は泣き黒子のある顔をクシャリとして笑っていた。決してランス様やアポロ様と比べて、美形だとは言えない容姿だけれども、彼の笑顔は私の心臓の鼓動を早くする。嗚呼、これが恋なんだろうなって。頭の隅でちらりと思った。

「…どうしたんですか?」
「ん?ああ、報告書の評価はどうだったのかなぁって、気になってなぁ」

首の後ろを掻きながら、ラムダ様がそう言った。私は「ああ」と零しながら、数分前の記憶を思い出した。嫌味ったらしく私を哂った上司の顔に、かけられた冷たい言葉。その中で、一番マシだと思った言葉の、さらにマシな一部だけを、ラムダ様に伝える。

「『やれば出来るじゃないですか』…と。」
「おっ、やったな」
「…いえ、ラムダ様が手伝ってくださったお陰です…。」

そう謙遜してみるものの、本当はラムダ様に喜んでもらえて、凄く、凄く嬉しい。隠していても顔に滲み出る嬉しさを、目の前に居るラムダ様は気づいているだろうか。

「…ああ、そうだリゼ」
「はい、何でしょう?」

急にまじめな表情になって、私の肩に置かれた手に、心臓がドキリと一段と高く跳ねた。彼の垂れた目の奥にある瞳子に私が映って、私自身と、瞳に映った私の目が合う。なんだか不思議な気分になった。

「ランスにはもう、許可貰ったんだけどな」

今度の俺の任務、手伝って欲しいんだ。
発せられた言葉に私が言葉を返す前に、ラムダ様は任務の内容を、淡々と、笑顔を崩さないままに話し始めた。



ああ、任務って言っても大したことじゃねえよ。今度、コガネ百貨店…デパートって言った方が良い?…まあどうでもいいか。で、まあソコに今度強盗に入るんだけどな。俺の部下に…何ていうか、笑い声が特徴的なしたっぱが居るんだわ。んで、そいつの役っつーのが、社長を人質に取るっていう、まあ結構重要な役でさ。リゼには、そいつが逃走する手助けして欲しいんだよな。大丈夫、そんな難しい役じゃねぇよ。
ただ、そいつの動きに合わせて、警察の目を引くように走り回ってくれれば良いんだ。
な、簡単だろ?



小首を傾げて、私の好きな笑顔を見せるラムダ様に、私の首は自然と縦に動いた。

「…分かりました。」
「本当か?」
「ええ、ラムダ様の頼みなら。私、頑張ります!」

そう言って、私が彼に笑いかけた時。ラムダ様は私の体を強く、強く抱きしめてくれて。耳元でそっと、甘い声で、囁いてくれた。



「            」

その言葉を理解する前に、ラムダ様の冷たい唇が私のそれに重なって。ああ、もう理解するのは良いや。任務頑張ろう。と、私はひんやりした唇の感触を、ただ味わった。



三杯は酒人を飲む
ほんと、つかえるやつだな



「それが、貴女の幸せなら私はとやかく言いませんけど。」

ランスの部屋にて。部屋の主はイスに座ったまま、呟いた。
あの使えないしたっぱの女はきっと、今ラムダの頼みを承知して。そして数時間後には、お縄になってるだろう。それでも、幸せそうな笑顔を浮かべていそうな彼女を想像して、ランスはフンと鼻で哂った。

(少なくとも私があなたなら、囮役なんて御免蒙ります。)



10/11/28


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