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「花火しようよ。」

数秒前は静かに本を読んでいたと言うのに、唐突にそんなことを言い出して花火の調達に出かけてしまった彼に、少しだけ吃驚した。
なんだろうね?と呟くと、彼の相棒であるゲンガーも、首を傾げた。コレは分からないという仕草じゃなくて、ただ単に真似っこをしているだけなんだと私は知っていた。
そんな事はどうでも良かった。少し汗ばむ体の為に、クーラーの温度を一度下げる。(エコ?何それ)
そして、私も料理のレシピが載った雑誌を開いて、今晩のご飯は何を作ろうと思案するのだった。



「ただいま」
「おかえり、マツバ」

スーパーにしては少し早いな、と目線を上げると、新しく近くに出来たコンビニの袋が目に入った。成る程。
コンビニの袋の中には、花火一式がそろった花火セットというモノが入っていた。これ一つなら、コンビニの袋なんて要らないでしょ!と言いたくなるのだけれど、そういうリゼだってエコしてないでしょうと言い返されそうでやめておいた。全く、二人揃ってエコしないなんて。と少し可笑しくなった。

「どうしたの、急に笑って」
「え?私笑ってた?」
「うん」

いつの間にか表情が出ていたらしい。疑問符を浮かべるマツバに、何でもないよとだけ言って、心の中でこの話題に終止符を打った。(まあ、言うだけならタダって事で。)

「する?」
「うん」

マツバは、そっか。と微笑んで、ソレをみた真似っこゲンガーが同じように微笑んだ。
残念ながらゲンガーの微笑みには流石の私もドキドキしないぞー!
ゲンガーに残念でしたのベェをすると、ゲンガーはまた真似をして舌を出した。ゲンガーの方が舌が長いのでこの勝負は私の負けだ。負けても何も無いけれど。

「ね、リゼ」
「ん?」
「浴衣、着ない?」



そうして私は今浴衣姿でマツバ宅(私も住んでるけどね)の庭にて花火中。

私が浴衣を着ることに承諾したのは、マツバも着るだろうと踏んだからだ。マツバは最近ジム戦続きだったし、楽しみにしていた夏祭りも一緒に行けなかった。今年はもう、彼の浴衣姿は見れないのかと思っていたところに転がり込んできたこの提案。私が乗らない訳が無い。

着流しを着たマツバは、えらい別嬪さんだった。いや、いつもカッコイイのはカッコイイんだけれど。褒めると、照れたように笑った。ああ可愛いなぁマツバは、なんて思っていると、着替える間から退屈そうにしていたゲンガーが「早く花火しようよ」と浴衣の裾を引っ張った。そんなゲンガーもなかなか可愛かった。



ゲンガーは悪戯っ子だ。

何処からともなく出てきた野性のゴースやゴースト達と一緒に鬼火で一気に火をつけるから、一瞬マツバ宅が火事になるんじゃないかとヒヤヒヤする。

「ダメだろ、ゲンガー」

叱り口調のマツバに、しょぼんとするゲンガー。勿論ソレは普段マツバに怒られている私の物まねだという事を、私もマツバも知っていた。
全く、とモンスターボールに仕舞われるゲンガーに、おイタが過ぎたねと言葉をかけた。
結局、モンスターボールの中に入るまでゲンガーは私のしょんぼりの真似を続けているのだから笑ってしまう。

「ほら、ゴース達も戻りな。」

マツバがそう声をかけると、ゴース達は何処かへと消えてしまった。マツバ凄い。

「ふぅ。」
「やっと静かになったね。」

シンと静まり返った空間で、鈴虫の鳴く(?)音が聞こえてきた。リンリンリン。昼間にはまだ蝉の鳴き声だってあるのに。
でもこういうところで秋を感じると、そろそろ夏が終わるんだなと実感する。今年の夏はあっという間に終わってしまった気がする。寂しいかと言われるとそうでも無い。マツバと一緒に過ごせたしね。

「線香花火する?」

というか、それしか残って無いみたい。と苦笑するマツバの方を見れば、彼の手に残った花火には線香花火が僅か4本。動かせばポトリと落ちるのが、どうやらゲンガー達は面白くなかったようで、それ以外の派手な火花が出る花火は、既に全て使われていた。

「いいよ」

二本ずつ私とマツバでそれを持って、その内の一本に、火を点ける。先っぽの玉の部分が朱に光って、その後にパチパチと火花を散らし始めた。
小さい頃は誰が最後まで持つかとか勝負したっけ。と思い出に浸っていると、マツバは線香花火の灯りを見ながら呟いた。

「この光り方も、名前があるんだって。」
「へえ、そうなの。」
「うん、最初に赤く光るでしょ?あれが牡丹。」
「ふぅん。」

火花が散り始めた最初の方に比べると、少し落ち着いた火花をみながら応えると、更にマツバは種類について教えてくれた。

「パチパチって激しくなったらそれは松葉。」
「マツバ?」
「うん、松葉。」
「マツバと一緒だね。」
「うん。」

はは、と笑うとふふ。と返って来た。さっきのが松葉か。

「じゃあコレは?」

マツバに見せようと、線香花火を少し動かそうとした瞬間。ポトリと朱色のそれは地面に落ちた。あ、と短い声が漏れる。

「落ちちゃった」

照れ隠しにあはは、と笑うとふふふ。と返って来た。笑い声の方を見れば、マツバの持っているそれも"松葉"の状態から変わっていた。

「これはね、柳だよ。」
「柳……ふうん。」

暫く柳と呼ばれた線香花火を見ていると、次第にそれは勢いを弱めていく。何にでも終わりはあるのだから、当たり前なのだけれど。それでももう少し見て居たかったなと思った。

「これももしかしてある?」
「うん、これはね……散り菊って言うんだ。」
「散り菊ねえ」

私が言葉を繰り返すのと同時に、線香花火から光が消えた。再び暗くなったこの空間で、マツバが微笑んでいるのが何となく分かった。

「次は、勝負するかい?」
「そうだね、私負けないよー」

どうかな、とクスクス笑うマツバに、これは絶対勝ってやると心に決めてみた。



線香花火
「私は、松葉が一番好き」
「!」
「はい、私の勝ちー」



10/08/21


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