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※死ネタ



ヤマブキシティ 格闘道場内にて。一人の男が、ぽつんと座っていた。

"先日起きた、コガネ発ヤマブキ行き便のリニアが突然転倒した事故で―――"

道場に置いてあるラジオから聞こえてくる、女性リポーターの声など全く聞こえないといった様子で、道場の入り口を見つめるマツバ。
もう3日もこうして、彼は人を待っている。

「おそいな、リゼちゃん。」

暇そうに、1つのモンスターボールを取り出し、彼は投げし、問いかける。「お前もそう思うだろ?」ポン!と軽い音がして、ゲンガーが飛び出してきた。ゲンガーはマツバの質問に対して首をかしげたが、彼の少し疲れた顔を見て、いつも上がっている口角を少しだけ下げた。

"なお、今現在判明しているだけで、死者は100名を超えており―――"

「僕との約束、すっぽかした事なんて無いのにな」

ゲンガーの頭をよしよしと撫でながらマツバは呟いた。

PiPiPiPiPi!
マツバのポケギアが勢い良く震え、電話が来た事を彼に知らせる。だるそうに、ポケギアを手に取り、ディスプレイを見つめるマツバ。数秒画面を見つめた後、ゆっくりと通話ボタンを押した。

「もしもし、ハヤト君?」


『おいマツバ!お前いまどこに居るんだよ!もう3日も帰ってないって言うじゃないか!』

発進主はハヤトだった。背後に聞こえるポッポやピジョンが羽ばたく音や、鳴き声に負けないような大きい声で彼は喋りだした。

「どこって、ヤマブキシティの格闘道場だよ。」
『はぁ?』
「リゼちゃん……リゼちゃんを待ってるんだ」
『リゼって、マツバお前』

電話の向こうで、ハヤトの声が小さく、低くなる。

"今回の事件の詳細は、現在捜査中です。"
"では、次のニュース。ピッピブームの再到来です。"

そこで、マツバはラジオの電源を落とした。プツンと音が消え、道場はシンと静かになる。僅かに聞こえるのは、彼の小さな息の音のみ。

『なぁ、分かってるんだろ?』
「何が?」
『何がって……!!だから、』
「ごめんハヤト君、僕切るね。」

ハヤトが口を開く前に、マツバは通話終了ボタンを押した。そして、普段の彼が絶対にしないように、乱暴にポケギアを放った。

PiPiPiPiPi!!
PiPiPiPiPi!!

再び振動と音が、床に転がったポケギアから溢れ出る。きっと、ハヤトがもう1度電話をかけて来たのだろう。マツバはその音を無視する。



「遅いなぁ、リゼちゃん」



彼は3日前から、再戦の約束をした彼女が来るのを、ずっと、ずっと静かに待ち続けていた。

「早く、来てよ……勝負しようって、約束……したじゃないかっ」



待ち人は来ない
(分かってる、でも分からない)
(3日前にポケギア越しに約束したあの声が、僕の頭から離れないんだ)



10/07/07


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