ラムダは言葉を失った。残業で見も心もヘロヘロの疲れた状態で部屋に戻ってみれば、ベットの上に彼女であるリゼが居て、すやすやと寝息を立てていたからだ。
「今日はさっさと寝ちまおうとか思ったのに・・・」
先ほどまで重かった瞼は、わずかに見える彼女の下着の所為でぱっちりと開き、ついでに地獄のような残業があった事さえ忘れてしまった。とりあえず気を落ち着かせるために、ラムダは冷蔵庫の中にあったビールを一気に飲み干す。
「おい、リゼ!リゼー?」
彼女の両肩をゆさゆさと揺らし、何とか眠りの世界から戻ってこさせようとしたのだが、リゼがその程度の事で起きるわけが無いと、ラムダは知っていた。
けれど、だからといって自分のベットに如何してリゼが居るのか。そもそもこんな夜中に男の部屋に忍び込む彼女の心境を何としても聞き出さなければと、ラムダはだんだん声を大きくしながら彼女を起そうとする。
「リゼ!」
「んぅ…やぁ……っ」
眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をするリゼだったが、ラムダは自分の中で何かが溢れそうになるのを堪えるのに精一杯だった。その声は反則だろ!
「リゼ……頼むから起きてくれよ」
「……」
「俺がもたねえって」
「……ん、」
起きる様子を全く見せないリゼに、ラムダは大きくため息をつき―――自分の出せる精一杯の低い声で彼女の耳元に囁いた。
「いい加減起きないと……おじさん、襲っちゃうぜ?」
「へっ!? あ、あ、ラムダさん」
「はあ……、やっと起きたか。」
囁いた瞬間、目をパッチリと開いたリゼに、ラムダは本日2回目のため息をついた。ここまできたなら、起きなくてよかったというのに。
「おはようございます……」
「何がおはようだ、夜中だぞ。」
「そ、そうなんですか? あ、じゃあラムダさん、今まで残業だったんですか?」
「まーな」
「お疲れ様です……なのに私、寝ちゃって、ごめんなさい。」
ベットに正座して、ちょっとだけ申し訳無さそうな顔をするリゼに、ラムダは一瞬だけたじろいだ。
(俺が、この顔に弱いって事。自覚してたりして)
よしよしと、柔らかい髪を撫でてやれば、リゼの顔は直にぱあっと輝く笑顔になった。ギュウ、とラムダの胸に顔を渦ませる彼女の背中に、自然に手が回り、暫くベットの上で抱き合って居た2人だが、リゼの「ラムダさんお酒臭い」の一言で甘い雰囲気はぶち壊しになった。
「……で、何でお前こんな夜中に俺の部屋に居るの。」
「えーっと、そのですね」
視線をチロチロと泳がせていたリゼは、ぱっと思い出したように、テーブルに視線を固めた。ラムダも彼女の視線が1点に注がれたのに気付き、ゆっくりその視線をたどって行くと、テーブルの上に、普段見慣れないものが存在していた。
「なんだこれ。プレゼント?」
「はい!」
ベットをおりて、自信満々にプレゼントを取ってくるリゼを見ながら、ラムダは疲れきった頭をフル稼働させ始めた。
(あれ、今日何かの記念日だっけか?)
(俺の誕生日、じゃねぇしな……リゼの誕生日でもねえだろ?)
(女って記念日に五月蝿そうだからなあー……機嫌損ねないようにしねえと)
ごくりと唾を飲んで、白い箱を見たラムダは恐る恐る口を開く。
「一応聞くけど、誰に?」
「もちろん、ラムダさんです」
はい、と笑顔で箱を渡してくるので反射的に受け取ったものの、どうして自分にプレゼントが来るのか。考えても考えてもリゼの考えがさっぱり分からないラムダは、機嫌を損ねた後のことまで想定し、どうやってご機嫌取りをするか考えながらついに尋ねた。
「わりー……今日、何かの記念日だっけ?」
リゼの大好きなプリンは冷蔵庫にまだあっただろうか?何回キスすれば機嫌が直るだろうか?いや、今は酒臭いから逆効果か。
つまらない案が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返している間に、リゼはきょとんと不思議そうな顔をして呟いた。
「今日は、父の日ですけど。」
「……は?」
ラムダの頭にガツンと殴られたような衝撃が走った。何かの記念日ではないか、彼女の機嫌を損ねるのではないかといろいろ思案したというのに。
……――父の日?
開けて見てとキラキラ輝く目で訴えてくるリゼの為に、赤いリボンを解いて白い箱を開ける。
「あ、これ。ネクタイ?」
「はい!」
こりゃまた、父の日の定番を……と彼は思ったが、口には出さない方が良いと、のどまで出かけた言葉を飲み込んだ。
「もうすぐ、ラジオ塔乗っ取り作戦があるじゃないですか」
「ああ、確かにな。」
「だからその時、局長に変装するときにでも使ってくれればなーと思って。」
もじもじしながらそう言うリゼにラムダは笑い、がっしりとリゼを抱きしめた。だから今日、こんな夜まで俺を待ってたって事か。
突然のことに吃驚し、言葉も出ないリゼの耳に、彼は甘い声でまた、囁いた。
「ありがとな。ちゃんと使う」
耳まで林檎のように赤く染まった顔を見て、ラムダは悪戯な顔をして笑った。そして、彼女の唇に自分のそれを重ねると、リゼはお酒臭いです、と笑った。
「けどな、リゼ」
「何ですか、ラムダさん。……はっ! 柄が気に入りませんでしたか!?」
「いや、プレゼントはありがたいんだけどよ」
「俺、お前の恋人であって、父親じゃねーぞ!?」
yes恋人 not父親
「父親だったらお前にちゅーとか出来ねぇじゃん」
「そ、それは困ります!!」
10/06/20
「今日はさっさと寝ちまおうとか思ったのに・・・」
先ほどまで重かった瞼は、わずかに見える彼女の下着の所為でぱっちりと開き、ついでに地獄のような残業があった事さえ忘れてしまった。とりあえず気を落ち着かせるために、ラムダは冷蔵庫の中にあったビールを一気に飲み干す。
「おい、リゼ!リゼー?」
彼女の両肩をゆさゆさと揺らし、何とか眠りの世界から戻ってこさせようとしたのだが、リゼがその程度の事で起きるわけが無いと、ラムダは知っていた。
けれど、だからといって自分のベットに如何してリゼが居るのか。そもそもこんな夜中に男の部屋に忍び込む彼女の心境を何としても聞き出さなければと、ラムダはだんだん声を大きくしながら彼女を起そうとする。
「リゼ!」
「んぅ…やぁ……っ」
眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をするリゼだったが、ラムダは自分の中で何かが溢れそうになるのを堪えるのに精一杯だった。その声は反則だろ!
「リゼ……頼むから起きてくれよ」
「……」
「俺がもたねえって」
「……ん、」
起きる様子を全く見せないリゼに、ラムダは大きくため息をつき―――自分の出せる精一杯の低い声で彼女の耳元に囁いた。
「いい加減起きないと……おじさん、襲っちゃうぜ?」
「へっ!? あ、あ、ラムダさん」
「はあ……、やっと起きたか。」
囁いた瞬間、目をパッチリと開いたリゼに、ラムダは本日2回目のため息をついた。ここまできたなら、起きなくてよかったというのに。
「おはようございます……」
「何がおはようだ、夜中だぞ。」
「そ、そうなんですか? あ、じゃあラムダさん、今まで残業だったんですか?」
「まーな」
「お疲れ様です……なのに私、寝ちゃって、ごめんなさい。」
ベットに正座して、ちょっとだけ申し訳無さそうな顔をするリゼに、ラムダは一瞬だけたじろいだ。
(俺が、この顔に弱いって事。自覚してたりして)
よしよしと、柔らかい髪を撫でてやれば、リゼの顔は直にぱあっと輝く笑顔になった。ギュウ、とラムダの胸に顔を渦ませる彼女の背中に、自然に手が回り、暫くベットの上で抱き合って居た2人だが、リゼの「ラムダさんお酒臭い」の一言で甘い雰囲気はぶち壊しになった。
「……で、何でお前こんな夜中に俺の部屋に居るの。」
「えーっと、そのですね」
視線をチロチロと泳がせていたリゼは、ぱっと思い出したように、テーブルに視線を固めた。ラムダも彼女の視線が1点に注がれたのに気付き、ゆっくりその視線をたどって行くと、テーブルの上に、普段見慣れないものが存在していた。
「なんだこれ。プレゼント?」
「はい!」
ベットをおりて、自信満々にプレゼントを取ってくるリゼを見ながら、ラムダは疲れきった頭をフル稼働させ始めた。
(あれ、今日何かの記念日だっけか?)
(俺の誕生日、じゃねぇしな……リゼの誕生日でもねえだろ?)
(女って記念日に五月蝿そうだからなあー……機嫌損ねないようにしねえと)
ごくりと唾を飲んで、白い箱を見たラムダは恐る恐る口を開く。
「一応聞くけど、誰に?」
「もちろん、ラムダさんです」
はい、と笑顔で箱を渡してくるので反射的に受け取ったものの、どうして自分にプレゼントが来るのか。考えても考えてもリゼの考えがさっぱり分からないラムダは、機嫌を損ねた後のことまで想定し、どうやってご機嫌取りをするか考えながらついに尋ねた。
「わりー……今日、何かの記念日だっけ?」
リゼの大好きなプリンは冷蔵庫にまだあっただろうか?何回キスすれば機嫌が直るだろうか?いや、今は酒臭いから逆効果か。
つまらない案が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返している間に、リゼはきょとんと不思議そうな顔をして呟いた。
「今日は、父の日ですけど。」
「……は?」
ラムダの頭にガツンと殴られたような衝撃が走った。何かの記念日ではないか、彼女の機嫌を損ねるのではないかといろいろ思案したというのに。
……――父の日?
開けて見てとキラキラ輝く目で訴えてくるリゼの為に、赤いリボンを解いて白い箱を開ける。
「あ、これ。ネクタイ?」
「はい!」
こりゃまた、父の日の定番を……と彼は思ったが、口には出さない方が良いと、のどまで出かけた言葉を飲み込んだ。
「もうすぐ、ラジオ塔乗っ取り作戦があるじゃないですか」
「ああ、確かにな。」
「だからその時、局長に変装するときにでも使ってくれればなーと思って。」
もじもじしながらそう言うリゼにラムダは笑い、がっしりとリゼを抱きしめた。だから今日、こんな夜まで俺を待ってたって事か。
突然のことに吃驚し、言葉も出ないリゼの耳に、彼は甘い声でまた、囁いた。
「ありがとな。ちゃんと使う」
耳まで林檎のように赤く染まった顔を見て、ラムダは悪戯な顔をして笑った。そして、彼女の唇に自分のそれを重ねると、リゼはお酒臭いです、と笑った。
「けどな、リゼ」
「何ですか、ラムダさん。……はっ! 柄が気に入りませんでしたか!?」
「いや、プレゼントはありがたいんだけどよ」
「俺、お前の恋人であって、父親じゃねーぞ!?」
yes恋人 not父親
「父親だったらお前にちゅーとか出来ねぇじゃん」
「そ、それは困ります!!」
10/06/20