「ラムダさん!!」
「リゼ」
長い任務を終えて、アジトに帰ってきた俺は、久しぶりに彼女に会うことが出来た。会って、彼女を抱きしめた瞬間に彼女の体温とか匂いとか、その他諸々が俺を疲労の底から掬い上げてくれる。
ふと、ラムダは彼女の髪が短くなっているのに気付いた。
「お前、髪切ったの?」
「あー……えっと、任務に失敗しちゃって ランスさんに切られちゃいました。」
長い髪似合ってるってラムダさんに言われたのに……残念です、と口を尖らせて言う彼女の頭を撫でながら「いや、短いのも似合ってるぜ」と慰めてやった。
(ぶっちゃけ長い方が良かったんだけど。嗚呼、残念。ランスも酷い事しやがる)
そんな事を思いながら、リゼの頭を撫で続けていると、急にコテンと体重をかけられる。別に軽いから大した事は無いんだけど。こんなに甘えてくるなんて珍しい。
「どうした?」
「へへー、久しぶりに会えたので甘えたくなりました。」
「そうか、はは、いーぜ。膝枕してやろーか?」
「本当ですか!? わーい嬉しい! 幸せ!!」
俺の膝にちょこんと頭を乗せてニコニコするリゼ。その小さい額にキスを落とすと「髭がジョリジョリするー」と目を細めて笑っていた。
ああ、これが幸せか。そう思ったのも束の間、彼女は急に無表情になって、ぽつりと呟いた。
「ラムダさん」
「なんだ?」
「あたし幸せなんです。」
「……?」
「ラムダさんにぎゅってされて、チューして……幸せなんですよ。」
いつもは宙に浮かびそうになるくらい嬉しそうな言葉なのに、彼女の無表情な顔がそうさせてくれない。どうしてそんな顔をするのか。疑問がズシリと俺の心に覆いかぶさる。
「いつまで続くんでしょうね、この幸せ」
「どうしたんだよ、急に」
「私は100歳まで…いえ生きてる間、ラムダさんのことを愛する事が出来るって、自信を持って言えます」
「そんなの、俺だって言えるさ」
やっと少し笑顔を見せたと思ったら、すぐにまた表情を無くすリゼ。俺は彼女の頭を撫でる行為を一旦中断した。
「生きてさえいれば、です。」
「……は?」
「ねえラムダさん、私……この前の任務で死にそうになったんです。」
怖かったなあ、と呟いた後、リゼの頭に置きっぱなしにしていた俺の手に、彼女自身の右手がそっと触れる。もう片方の手は、彼女の団服のポッケへと仕舞われた。
「それで、思ったんです。私、どんくさいし。今回みたいな事、絶対またあるって」
「……おい、何取り出してんだ。」
彼女の左手に握られた折りたたみ式のナイフを見る。それが彼女の白い首へとゆっくり上がっていくのにつれて、頭から血が引いていくのが自分でも分かった。
「知ってますか?ラムダさん。世界では3秒に1人が死んでいるんです。怖いんですよ、私。ラムダさんが居ない時に死ぬんじゃないかって。」
「んなの、ねぇって」
「ありますよ、3秒に1人のペースですよ? ラムダさんがちょっとトイレ行ってるときに死んじゃうかも知れないじゃないですか。」
「……ねえよ」
「私、最期はラムダさんの前で死にたい。ラムダさんが任務に行ってるときに、その順番が回ってくるなんて嫌なんです。ラムダさんが、任務から帰って来たら頼もうと思ってたんです。ね、ラムダさん……殺してくださいよ、私の事。」
俺の右手がぐいと引っ張られる。ナイフが握られている彼女の左手に向かって、彼女の右手によって誘導される。ちょっとでも俺の手が動こうものなら、彼女の白い肌は、簡単に赤く染まるだろう。
「ラムダさんに殺されるなら、私幸せです。最期ラムダさんの傍に居られるなら……私の幸せは永久に続くと思うんです。」
(馬鹿か、お前は。)
「俺に、お前は殺せねえよ。」
何時も彼女へ愛を囁くときの何倍も低い声でキッパリ言うと、彼女は泣きそうな顔をした。
(もしそうなったらお前の幸せは永久かもしれねーな。)
「だって、私っ」
「もう、何も喋るな」
彼女の口から出てこようとする言の葉を無理矢理自分の唇で押さえ込んだ。深く、深く。彼女の思考がストップするくらいに。
殺せるわけないだろう。せっかく俺のモノにしたのに。
お前がいなくなったら、俺の幸せは、どうなるんだ。
俺が彼女にしてやれる事は
「最期、絶対に傍に居てやるから」なんて根拠のない約束で。
俺は、本当に彼女を幸せにすることが出来るのか。俺達は互いを本当に幸せにすることが出来るのか。
……よく、分からなくなった。
10/03/21
「リゼ」
長い任務を終えて、アジトに帰ってきた俺は、久しぶりに彼女に会うことが出来た。会って、彼女を抱きしめた瞬間に彼女の体温とか匂いとか、その他諸々が俺を疲労の底から掬い上げてくれる。
ふと、ラムダは彼女の髪が短くなっているのに気付いた。
「お前、髪切ったの?」
「あー……えっと、任務に失敗しちゃって ランスさんに切られちゃいました。」
長い髪似合ってるってラムダさんに言われたのに……残念です、と口を尖らせて言う彼女の頭を撫でながら「いや、短いのも似合ってるぜ」と慰めてやった。
(ぶっちゃけ長い方が良かったんだけど。嗚呼、残念。ランスも酷い事しやがる)
そんな事を思いながら、リゼの頭を撫で続けていると、急にコテンと体重をかけられる。別に軽いから大した事は無いんだけど。こんなに甘えてくるなんて珍しい。
「どうした?」
「へへー、久しぶりに会えたので甘えたくなりました。」
「そうか、はは、いーぜ。膝枕してやろーか?」
「本当ですか!? わーい嬉しい! 幸せ!!」
俺の膝にちょこんと頭を乗せてニコニコするリゼ。その小さい額にキスを落とすと「髭がジョリジョリするー」と目を細めて笑っていた。
ああ、これが幸せか。そう思ったのも束の間、彼女は急に無表情になって、ぽつりと呟いた。
「ラムダさん」
「なんだ?」
「あたし幸せなんです。」
「……?」
「ラムダさんにぎゅってされて、チューして……幸せなんですよ。」
いつもは宙に浮かびそうになるくらい嬉しそうな言葉なのに、彼女の無表情な顔がそうさせてくれない。どうしてそんな顔をするのか。疑問がズシリと俺の心に覆いかぶさる。
「いつまで続くんでしょうね、この幸せ」
「どうしたんだよ、急に」
「私は100歳まで…いえ生きてる間、ラムダさんのことを愛する事が出来るって、自信を持って言えます」
「そんなの、俺だって言えるさ」
やっと少し笑顔を見せたと思ったら、すぐにまた表情を無くすリゼ。俺は彼女の頭を撫でる行為を一旦中断した。
「生きてさえいれば、です。」
「……は?」
「ねえラムダさん、私……この前の任務で死にそうになったんです。」
怖かったなあ、と呟いた後、リゼの頭に置きっぱなしにしていた俺の手に、彼女自身の右手がそっと触れる。もう片方の手は、彼女の団服のポッケへと仕舞われた。
「それで、思ったんです。私、どんくさいし。今回みたいな事、絶対またあるって」
「……おい、何取り出してんだ。」
彼女の左手に握られた折りたたみ式のナイフを見る。それが彼女の白い首へとゆっくり上がっていくのにつれて、頭から血が引いていくのが自分でも分かった。
「知ってますか?ラムダさん。世界では3秒に1人が死んでいるんです。怖いんですよ、私。ラムダさんが居ない時に死ぬんじゃないかって。」
「んなの、ねぇって」
「ありますよ、3秒に1人のペースですよ? ラムダさんがちょっとトイレ行ってるときに死んじゃうかも知れないじゃないですか。」
「……ねえよ」
「私、最期はラムダさんの前で死にたい。ラムダさんが任務に行ってるときに、その順番が回ってくるなんて嫌なんです。ラムダさんが、任務から帰って来たら頼もうと思ってたんです。ね、ラムダさん……殺してくださいよ、私の事。」
俺の右手がぐいと引っ張られる。ナイフが握られている彼女の左手に向かって、彼女の右手によって誘導される。ちょっとでも俺の手が動こうものなら、彼女の白い肌は、簡単に赤く染まるだろう。
「ラムダさんに殺されるなら、私幸せです。最期ラムダさんの傍に居られるなら……私の幸せは永久に続くと思うんです。」
(馬鹿か、お前は。)
「俺に、お前は殺せねえよ。」
何時も彼女へ愛を囁くときの何倍も低い声でキッパリ言うと、彼女は泣きそうな顔をした。
(もしそうなったらお前の幸せは永久かもしれねーな。)
「だって、私っ」
「もう、何も喋るな」
彼女の口から出てこようとする言の葉を無理矢理自分の唇で押さえ込んだ。深く、深く。彼女の思考がストップするくらいに。
殺せるわけないだろう。せっかく俺のモノにしたのに。
お前がいなくなったら、俺の幸せは、どうなるんだ。
俺が彼女にしてやれる事は
「最期、絶対に傍に居てやるから」なんて根拠のない約束で。
俺は、本当に彼女を幸せにすることが出来るのか。俺達は互いを本当に幸せにすることが出来るのか。
……よく、分からなくなった。
10/03/21