第17話 「好きな人の幸せ」


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side:手越



「あれ、手越 今日一人で来たの?」


朝、早く行くと
もうあかりと美優は来ていた。



「あー、うん、気分転換」



きっと俺がいなければ、まっすーと叶ちゃんは一緒に登校してくるだろう。


少しでもまっすーと叶ちゃんがいられる時間を増やしてあげたい。




自分の気持ちにまだ答えは出せないけど、とりあえず今はやっぱりまっすーを応援したいから…。




「今日雨降るみたいだね」

「え!マジ?」

「傘は?」

「持ってない」

「購買で買ってきなよ」

「雨降る前に帰れば勝ちだろ?」

「無理だよ、多分」


どうにか雨に降られる前に帰りたい。



「あーれ?まっすーと叶歌おはよう」

「カップル登校ねぇ」


予想通り、まっすーと叶歌が2人で登校。
あかりと美優がそんな2人を茶化す。



「た、たまたまそこで会ったの」


叶ちゃんは照れくさそうに話す。


可愛いなぁ。




「おい、手越」

「まっすーおはよ」

「おはよ、じゃなくて」


不満そうに俺を見つめる。

どこか怒っているようだ。



「なんで先行っちゃうの」

「んー、気分転換?」

「行くな…」


まっすー、お前の彼女は俺じゃなくて叶ちゃんだよ…?



「どして?叶ちゃんと一緒に来れるじゃん」

「そんな理由ならもう先に行くな」

「なんでよ、」



「ちょっとー、なに朝から言い合ってんの」


俺達の雰囲気の悪さに気づいたのか、あかりが間に入ってくれる。



「まっすー、手越くん…?」


叶ちゃんも心配そうに寄ってくる。




「別に、言い合ってないよ」


俺はいつも通りの笑顔で返す。



おかしいなぁ、
まっすーのために動いたんだけどな。



彼はまだムスッとしている。


逆効果だったのかな。




ーーーーー
side:増田




なんかよくわからない気持ちで、
授業をサボって保健室に来ていた。



「今日はなにかしら?」

「よく、わからなくて」

「そう?まぁ、ゆっくりしていきなさい」



先生は俺がキッパリ振ってから
またいい女になった気がする。



「手越...」


なんで先に行っちゃうの。



いや、…わかってる。
多分手越は俺のために動いてくれた。



もちろん叶歌と一緒にいたい。


けど、手越との時間を削りたくない。




手越ばかり俺に依存していると思っていた。


でもそれは全く逆だった。



俺が一番依存してしまっているではないか。





…コンコン。



保健室のドアが小さくノックされ、静かに開いたドアの向こうから金髪が顔を覗かせる。



「....美里ちゃん、まっすーいる?」


「あら、いらっしゃい。いるわよ」


ちょっと留守にするわね、と先生が空気を読んで出ていく。


それと入れ違いで手越が部屋に入ってくる。



「...手越、」

「まっすー授業サボっちゃダメだよ」


頬をぷくっと膨らませる。


「あぁ、ごめん」

「朝のこと、まだ怒ってるの?」


金髪は俺に寄り、そばに座る。


「勝手に行ったのは謝るよ。ごめん…」

「……別に、もう怒ってない」


よかった…と笑う。



「……ごめんな、手越」

「なーにが?」



叶歌のことも奪っておきながら、
手越のことも縛っている気がする。



俺が黙っていると 手越が話し始める。



「ねぇ、まっすー」


「うん?」



「まっすーの言うとおり、俺も叶歌が好きだよ」



でも、と視線を下の方に向けながら話す。


「まっすーのことを応援したい」


「手越、」


「だから、今日も勝手に先に行った」


「...あぁ、わかってるよ」

「でも、逆効果だったね」


まっすーに悲しい顔させちゃったよ、と 悲しそうに笑った。


そんな顔で笑うなよ。



「叶ちゃんにもまっすーにも嫉妬しちゃう」


「手越...」



「ごめんね、まっすー」




やめてよ手越、謝るのは俺の方。



でもなかなか言い出せない。




「だ、としても...」


これだけは言っておきたい。



「俺から離れないで」



傍から見たら 美優が喜びそうなネタだ。


俺は手越を優しく抱きしめた。



「っ、まっすー」


彼は俺の背中に手を回し、
ぽん ぽん と慰めるように叩いてくれる。




この時、もう俺は決心していた。



俺の大好きな2人を、幸せにしてあげるんだ。





ーーーーー




「まっすー帰ろ」

「あぁ、帰ろっか」


外は雨模様。


増田くんは朝からどこか元気がない。



「まっすー、叶歌、じゃあね」


「手越くんは?」

「あー、なんか先帰ってろって」


「そっか、バイバイ」


あかりと美優が帰っていく。



わたしたちもそれに続いて帰る。




外に出てみると予想以上の大雨。


「雨すごいな」

「手越くん大丈夫かな」

「え?」


「あ、ううん、なんでもない」



増田くんが目の前にいるのに
手越くんの心配をしたら失礼だろう。



「そういや、手越傘持ってんのかな」


少し歩き出した後、増田くんは戸惑う私を気遣うように手越くんの心配をし出す。



「まぁなくても購買で買えば大丈夫かな」


と、ボソボソ呟いている。



「…戻る?」

「うーん、俺今日用事あんだよね...」

「そ、そっか...」


「叶歌、」

「ん?」

「俺今日こっち行くから、ここで」


「あ、うん、また明日」

「風邪ひくなよ」

「ありがとう」





増田くんとわかれて、少し歩いたところで立ち止まる。



そして、次に歩み出す足は逆を向いていた。





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