×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





たまたま、偶然にも。毬花との出会いはそんな風に形容するのが最もふさわしいだろう。例えば僕が祓魔師じゃなくて、毬花に変な生真面目さがなければ絶対に成り立たない瞬間だった。
奇遇がいくたにも折り重なったある意味奇跡とも呼べるエンカウンター。それは約1年ほど前の、中学3年になったばかりの頃まで遡る……

その日、お昼を少し過ぎたあたりに父さんから連絡を受けた。もちろん内容は祓魔に関わることで、僕は体調不良を理由としてすぐさま学校を早退することにした。また早退か、もう受験生なんだから体調管理はしっかりしろよ、まぁ奥村なら大丈夫か、などと聞き飽きた先生の言葉を愛想笑いを浮かべて軽く流し、そのまま任務の方へ駆けつけた。
だが意外にも、僕がわざわざ参加せずとも済んだだろうと思うほど事は問題なく運び、そしてあっという間に片付いてしまった。
終わった後、悪かったな、といつもの口調で一言詫びを入れた父さんに、今日はもう先に帰ってろと言われて背中を押された。まだ後始末などは残っていたけれど、不必要に学校を早退させたことを申し訳なく思っているのだとわかっていたので、そのまま1人で帰宅することにした。
あの時はなんだか真っ直ぐ修道院に帰る気になれなくて、余計に遠回りしたのをよく覚えている。わりと上の方に居座る太陽に照らされて足許に短く燻る影に、じっと目線を下げていた帰り道。
まだ昼下がりだというのに全く人気のない道をゆっくりと歩いていると、ふと近くに穏やかではない声と速いリズムで鳴る足音が聞こえた。
顔を上げてみると、前方からだんだんと距離をつめてくる2つの人影。前の方を走っているのは、質素な上下単色の制服から見て中学生くらいだと思われる少女。その少女とは毬花のことなんだけれど、この時後ろを追いかけるように走っていた男の手には、ぎらりと物騒に光るナイフが握られていた。それはどう見ても刃渡り6センチ以上あり、竜騎士の資格を持ち普段から銃などを扱っている僕があまり言えた義理ではないが、立派な銃刀法違反だった。
おまけに男は怒りで興奮していることをふまえても様子がおかしく、その異常なまでの表情から何か違法な薬に手を出している恐れさえうかがえた。そんな男に捕まれば、少女が何をされるかわからない。


『た、助けてっ』

「待てオラァッ!」


咄嗟に辺りを見回してみるが、やはり人通りの少ないこの道では助けを呼ぶのは絶望的だと判断した。
彼女はすでにへろへろで、手を引いて走ったとしてもこの距離では完全に逃げ切ることは出来ない。すぐに追いつかれてしまうかもしれないし、なにより相手は刃物を持っている。至近距離のまま逃げていて、怒り狂った男に後ろからそれを投げつけられる可能性も万が一ではないだろう。
一か八か、きっと他に手段はない。人がいないならいないで好都合だ。
先ほどしまったばかりの銃を懐から再び取り出し、素早く弾をこめる。飛び込んできた少女を片腕に抱いて、銃口を男に向けた。
躊躇いなく一発撃ち放てば、一瞬焦ったような表情を見せた男の虚ろな目がこれでもかというほど見開かれて、助けを乞うような呻き声が洩れた。
ちょうど心臓のあたりに当たった弾は、実のところただの栄養剤。外傷はたいしたこともないと思うが、男は撃たれたショックで気絶し力なくその場に倒れ込んだ。


『え、えぇぇぇ!?』

「……ちょっと来てください」


白目をむいて倒れたまま微動だにしない男と僕を交互に見やって混乱気味に声を上げた少女の腕を掴み、早々に歩き出す。彼女は男が死んだとでも思っているのか、それを放置していくことに僅かな抵抗を見せるが、男がすぐに目を覚ましてしまうこともあり得ると懸念し構わず足を速めた。
とくに行き先があるわけではなかったが、ひとまずこの場を離れて落ち着いて話が出来るところに移動したい。もし僕が男を殺したと勘違いされたまま彼女を帰して警察にでも届けられたら後がめんどうだ。
とりあえず僕が祓魔師であることを簡単に説明して誤解をといておこう。あとは、何故男に追われていたのか、何か事件にでも関わっているのか、そこらへんの要点も一応訊いておいた方がいいだろう。
そこまで考えたところで、彼女の不安げな声がかけられた。


『あ、あの……』

「あの男は死んでませんよ。撃ったのは栄養剤です。なんなら今から戻って確認しに行きますか?」

『いえ、いいです……』


彼女が気にかけていることが何だかわかっていたので、前を向いたまま的確に答えればそれっきりおとなしくなって静かについてきた。
そりゃあ、たまたまそこにいて助けを求めたまだ学生服を着ている中学生がいきなり銃を出して男を撃って、しかもその得体の知れない中学生にどこかへつれていかれているだなんて、恐怖を感じない方がおかしい。
でも拭えない恐怖に縛られておとなしく静かにしていてくれるというなら、それはそれで助かる。もしパニックを起こされて暴れられたらたまったものではない。


『あの、いったいどこに……』

「……図書館」

『図書館?』


いまだ怯えた様子の彼女に、無意識にそう答えていた。本当にパッと思いついた場所が考える前に口をついて出てきた。
その図書館は向かっていた方向の先にあり、なおかつこのペースなら10分とかからず辿り着ける。だとすれば別に訂正する必要もない。彼女のわりと座っているらしい肝に、ある程度の常識が含まれたなら、場所の雰囲気を尊重し取り乱して騒ぐこともないだろう。
そう考えるより早く、ただ漠然とあの場から離れていただけの足が、図書館を目指してルートを確定していた。





1年前の出会い、上。



(おう。それでそれで?)
(ちゃんと順を追って話すから静かに聞いててよ)


prev / next

back