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目の前の謎はいったい誰がどう説明してくれるというのだろう。


「なんであるんだよ。ここ男子寮だろ?」

『なんでだろうね。男子寮の女湯……もしかして学園の七不思議?』


お互いに訝しむような表情を極め込んで見つめる先にあるのは、女湯と書かれたドア。浴場への入り口は1つだったので、やはり女湯はないのかと思った次の瞬間、男女の分かれ道が現れたのだった。
もしかして心が女性の、そっち系の人のための女湯なんだろうか等燐と2人で軽く議論に至ったところで、しばらくだんまりしていた雪男が割って入ってきた。そのなんとも言えない微妙な表情の中には、僅かに疲労が見て取れる。


「2人共ふざけてないで、さっさと入るよ」

「はいはい。いちいちうるせぇ眼鏡だぜ」


けっ、と悪態をついてから、燐が男湯の方のドアを開けた。それに続くようにして、自分も謎の女湯へと足を踏み入れる。
少し埃っぽい床にそれとなく視線を落とすと、ふいに足もとで予期せぬものを発見してしまった。ひっとひきつるような短い悲鳴が喉に引っかかる。
勢いよく後ずさってドアをバンッと閉めると、まだ外にいた雪男と目が合った。


「今度は何?」

『いや、ちょっと……蜘蛛が……』


さすがにゴキブリで大騒ぎした後なので、そう告げるのは多少気が引けた。
案の定、雪男はひどく呆れた顔をしている。
もう諦めて我慢しよう。そう思っても怖いものは怖いのでどうしようもないのだが、本当にこれ以上は雪男にも迷惑だろうし、なにより醜態を晒している自分が恥ずかしい。自分よりも小さいものにビクビクと怯えていることが、なんだか悔しかった。
そっと息を吐いて、ごめんね、と小さく呟いてからドアの取っ手に手をかけた時、何故か脱衣場へ行ったはずの燐が帰ってきた。


「なんだよ1人で入るのが怖いのか? しょうがねぇ、だったら毬花もこっち入っていいんだぜ?」

「兄さん!」


やたら眩しいキメ顔で言い切った燐を雪男が叱りつけたが、それを聞いてあたしはふと考えてしまった。無意識に手が顎にかかる。


『そうだね……』

「え、毬花!?」


にやにやしている燐をなおも叱咤していた雪男だったが、あたしがぼそっと呟いたことが衝撃的だったらしく、ものすごい早さと形相で振り返った。普段あまり見ないその表情に、驚いて肩がびくりと跳ね上がる。


『いや、あの……だってここを使ってるのはあたしたちだけで、しかも皆メフィストが後見人』

「え、毬花もなのか!?」


話の途中で燐がひどく驚愕した声を上げた。雪男から、2人の後見人がメフィストであることは聞かされていたけど、やっぱり燐はあたしのことは知らなかったようだ。まぁ、当たり前といえば当たり前なんだけど……。
あたしの場合は両親もちゃんといるし、学園や塾に通うにあたっての後見人がメフィストってだけなのだが、今はそれに関してはひとまず置いておくとしよう。


『話せば長くなるからそこは割愛するけどね、驚くほどくだらないいきさつだから気にしないで』

「あぁ……」


付け加えた言葉に、雪男が何とも言えない微妙な面持ちで声を洩らした。
確か出会ったその日には雪男も進路が正十字学園だってことを知ったんだったかな。しばらくして仲良くなってから雪男にその事を話した時はずいぶんと呆れられたっけ。
少し前までお互いのことを全然知らなかったのが嘘みたいで懐かしくて、いろいろと思い返してしまいそうになったけれど燐に向けて話を続けた。


『となると当然あたしたちの生活費とかは向こう持ちになるよね。水道代とか電気代とかも全部』

「言われてみれば、確かにそうだな」


難しそうな表情をした燐の相槌を受けつつ、また続ける。雪男も黙って話を聞いてくれている。


『3人しかいない上に男湯と女湯両方で毎日お湯はってたらもったいないでしょ? だから例えば、基本は男湯を使うって決めて、その日ごとにてきとうに時間ずらして皆で使えば結構な節約になると思うんだ』

「おぉ、頭いいな!」

『どう? 雪男』


燐が声を上げ目を輝かせる。あたしも我ながら結構いい線いってるんじゃないかと自画自賛していたため、期待の念を込めて雪男へと向き直った。これはもう採用すべきでしょ。
雪男は少し考えるように眉根を寄せて、爛々としたあたしたちをちらりと見やってから小さく息を吐いた。


「すごくいい案だと思うけど、何かルールを決めた方がいいんじゃないかな」

『んー、どんな?』

「そうだな……。もし何かの間違いで鉢合わせても大丈夫なように、入るときはタオルを巻く、とか」


どこかこちらをうかがうようにしながら、無骨な人差し指をぴんと立てて至極真面目に答えた雪男。その回答内容はとても素晴らしいものだ。
どうかな、と少し不安気に訊いてくる雪男に、あたしはすぐに頷いた。


『うん。いいねそれ、採用』


ぴとっと雪男の人差し指に自分の人差し指をくっつけて言う。するとくすぐったそうにはにかみ笑いを浮かべた雪男。
へなりとした緩い空気が居心地悪かったのか、燐が間に割って入ってくる。指先はとっくに離れてた。


「ほほほほらっ、さっさと入んぞ!」

『はいはい』





旧男子寮お風呂ルール。



(どうする? 毬花先に入る?)
(一番風呂いただきたいところだけど、あたしかなり長いからお先どうぞ)


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