×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





細かい荷物の整理をして2人がお風呂からあがるまでの時間を潰していると、室内の物の配置が完璧になったところでとんとんと控えめに部屋のドアがノックされた。


「お風呂空いたよ」

『はーい』


ドア越しに聞こえた雪男の声はくぐもっていて、返事をするとすぐに隣からドアを開閉する音がした。
あたしが懲りもせず着替えていないままなのを悟っての行動だろう。さすが雪男、わかってるね。
さっと荷物を持って部屋を後にする。すっかり外は暗くなり、他に誰もいない寮内は活気もなく真っ暗だ。窓の外もひたすら闇が広がっている。
あたしはやっぱり早足になっていた。

少し埃っぽい廊下はまだ慣れなくて、一度雪男たちと一緒に浴場へ行かなかったらたぶん迷子になっていたかもしれない。
別段躊躇うこともなく男湯の方に足を踏み入れる。結構ボロいし汚れているけど、この寮全体から比較してみると浴場はまだマシな方だ。
たまにギシギシと鳴る床に恐怖心を煽られながら、ワイシャツや下着をかごに放り込んでいく。着替えは隣のかごに入れたし、準備完了。
そして、採用なんて言ったけど、何かの間違いで遭遇とかそうそうあるわけないよなぁと思いつつ最後にタオルを体に巻きつける。
まぁ、もしものためだよね。もしも。なんて心の中で呟いて、シャンプーやら何やらのお風呂セットを抱える。
ふと視線をやった先に鏡を見つけ、映り込んだ自分と目が合った。特に用があるわけでもないけれど、何気なくそれに近づいていく。
さらけ出した首もとには、昼間つけられたばかりの痛々しい痕が無数に散っていた。


『……あ』


たまに胸もとにまで拡散した痕を指先でなぞりながらそれを他人事のように眺めていると、とんでもないことが脳裏を過った。
まさか、いや、そんな……
でも確かに雪男は、その怪我はその人にやられたのかな、と思って。と、そう言った。
最初は怪我でもしたのかと訊ねてきたし、何よりもあの雪男だから、これが何なのかわかっていないと思ってた。完全に油断してた。


『はぁ……』


バレてたのか。
深いため息つき、暗い気分と重い足を引きずって浴場内に進む。
起こってしまった事はどうにもならない。いくら悔やんでもなかった事にはならない。だから、雪男が1日でも早く記憶から消してくれることを願って、あたしはこの件に関して開き直っておくとしよう。
そうは思ってもやはり、そんなすっぱり忘れられるほどあたしのメンタルは強靭じゃなかった。





頭を浴槽の縁にのせて腕を引っかけ、タオルを巻き直した体を仰向けにお湯に浮かせる。シャワーのところには、頭と体を洗ったままシャンプーやボディーソープが置きっぱなしになっていた。
もう、入ってから1時間以上は経っただろうか。あたしってば相変わらずの入浴時間の長さだ。
でもここなら特に規則もないし、他の寮生を気にすることもないから気兼ねなくゆっくりできる。
おいおい、なんて素晴らしいんだ、旧男子寮。


『ふぅ……』


何をするでもなく、ただぼんやりと湯船に浸かってリラックスする。その日を振り返ってみたり、瞑想したり、時によって頭の中はバラバラだ。
そして、気がつけば2時間ほど経っていたりする。これも日常茶飯事なんで別に構わない。
でも毎回家族や、旅行先で友達たちにお風呂長すぎて死んでるのかと思った、なんて言われたりする。確かに、なかなか出てこなかったらそう思ったりしても仕方ないかもね。

あ、なんだか眠くなってきたかも。
ちゃぷちゃぷと湯の中で足を遊ばせて眠気を紛らわす。こういう時って、朝布団から出れないのと似た感覚。
お湯を掬っては溢す。ぼうっと単調な動きを繰り返していると、脱衣場から物音が聞こえてきた。
なんだろう、まさか強盗? いや、強盗が浴場に来るわけないか。


「毬花? 全然出てこないけど大丈夫?」


あれ、雪男の声だ。どうしたのかな。心配そうな声色しちゃって。あたしはちゃんとここにいますよ。


「……毬花?」


あたし? あたしは、





大丈夫、ちゃんと生きてます。



(毬花!)
(はい!)
(……え?)
(あ……)


prev / next

back