誰か冗談だと言ってくれ
あの地獄から1ヶ月ほどたったある日。……と言っても、今現在学園祭までの時間はまだ1ヶ月ほど残されているため学校内の空気はいまだ緩い。
そんな中マリカのせいで主役を演じることになっちまった俺は放課後まで演技の練習をさせられ、少しでも台詞を間違えばねちっこい姑のように説教され、さらには感情がこもってないと言われ、もうさんざんだ。
そんなこんなで苦難を乗り越え一応一通り練習はしたものの、まだ学年全員で全部通しての練習は行っていない。男女逆転して話的にウケは狙えそうだが、こんなんで成功するのかと今さらながら心配になってきた。
「ボリスー」
「なんだ?」
そんな時、俺が舞台の隅に座っているとコプチェフが満面の笑みで話しかけてきた。その女子なら誰もが見惚れるだろう笑顔を見て、俺はもう嫌な予感しかしない。そしてそれは当たる。
「白雪姫の衣装出来たよ」
やっぱりな。
俺はため息をついて重い腰を上げ、試着してみろと言うコプチェフに着いていった。引きずる足は重く、気分は最悪だった。
どうせ中学生の作ったドレスなんてたかが知れてるだろう。と、馬鹿にした俺が馬鹿だった。連れて行かれた先で目にしたものは想像をはるかに絶するものだった。
「冗談だろ……?」
「かわいいでしょ?」
絶句する俺の目の前にはかわいらしいフリフリのドレス。それは、いつだかコプチェフに見せられたデザイン画を忠実に再現していた。これを着て全校の、しかもその生徒たちの親の前でやるのかと思うと逃げ出したくなった。もはやこれは嫌がらせ以外の何物でもない。
そんな俺の気持ちはつゆしらず、コプチェフが自慢気に話し出す。
「器用な人と衣装係総動員で作ったかいはあるでしょ? ほら、ちょっと手直しがてら着てみてよ」
コプチェフが笑顔で差し出してくるドレスを呆然と見つめながら俺は思った。
俺、学園祭まで生きてるかな……
(ぶっ、ボリスっ似合ってるよ)
(我慢しないで笑え。体に毒だぞ?)
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