昼休みまでの間、授業のことなんて身に入らなかった

帝さんたちは俺をユウだと思い始めているのかもしれない。でも疑っているだけで証拠はまだない。きっと用事はその証拠探しか何か。そしてその証拠となる瞳は眼鏡を取られてしまえば簡単に現れる。

では、眼鏡を取られないようにすればいいのか?きっとその場しのぎにしかならない上に必死に隠せば逆に怪しい。

俺とユウが他人だと思って貰うにはどうしたらいいんだろう。

しばらく考えていると何度目かわからない鐘が鳴った


「昼だな」


怜がそう言いながら俺の隣に来た。そして、彼も来た。


「やっほーさっきぶり」

「瀬川、」

「話を、しようか?」


素晴らしい笑顔を添えたその言葉。やっぱり何かを楽しんでいるような表情。味方なのかはわからない。でも、敵、即ち帝さんの味方ならばもう俺の正体はバレているんだから今更話すことも何もない。じゃあ…


「とりあえず、食堂行くか」

「ダーメ」

「は?なんでだよ」

「わかんないー?」

「わかんねーから聞いてんだよ」


小馬鹿にしたような口調に怜が苛立つ。怜は思ったより短気だ。まぁ、でも今のは彼の言い方が明らかに人を苛立たせる言い方なのでしょうがない。


「食堂だとだめなの」

「…生徒会が…来るから?」

「…そう。水野くんは頭がいいね」


瀬川くんが目を細めた。よくできました。と言わんばかりの表情。やっぱり小馬鹿にしている。


「と、いうことで!僕の仕事部屋に行こうか」

「え?」
「はっ!?」


さっさと行ってしまった瀬川君を俺たちは走って追う。仕事部屋ってなんだ。


「着いたよ」


言われて扉の上にあるプレートを見ると『パソコンルームV』の文字。三個目のパソコンルームってことですよね?…そんなに必要か??というか、

「さっき仕事部屋って」

「そ。ここが俺の仕事部屋。何かとパソコンを使う仕事が多くてね〜。それにここ利用する人ほとんどいないからさ、乗っ取っちゃった」


笑顔で言うが学校の教室をひとつ乗っ取るってどういうことなのか。俺は怖くて聞けなかった。本題にさっさと入らせてもらおうと俺は言った。


「話って?」

「ユウちゃんはせっかちだね。前はもうちょっとゆったりしてんかった?」

「憂ちゃんって呼ぶ仲なの?」

「昔、って」


ジュン、だ


「そうなんだよ」

2人を見下すような視線を送り、俺の腰に手を回して抱きついてきた。やたらと触れている部分の多いこの体勢に黙っていられない。


「っ!おいっジュン!」


相変わらず俺をダシにして人で遊ぶのが好きな奴だ。怜と真哉が固まっている。そして、この状況は昔のもあった。そのとき彼は俺をダシにして帝さんとマサさんで遊んでいた。大物だ。そして、こいつはとんでもないことをしてくれた。


「だって、キスした仲だもんねー?」

「っ!ばか!」


抱きつかれただけなら別にと思って油断していたらキスをされた。しかもびっくりして固まっているのをいいことに舌を入れようとしたときは驚いた。すぐに帝さんが引き離したが。あのときの帝さんはこわかった。もちろん、マサさんも。


「顔赤いよー?照れてんのー?」

「うっさい!もうはなせってば!」

「えーユウちゃん可愛いしやだなー」


ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるジュン。そろそろ本気で離してほしい。男同士くっついて何が楽しい。


「おい」

「怜…、」


……怒ってる…目が……据わってる……こえぇ……。さすが、不良様ですね…
そう、ビビっているとすぐ横からクスクス笑っている声が聞こえた。その悪趣味な遊びに俺を使うのをそろそろやめていただきたい。


「ジュン!」

「クスッ、なーにー?」

「っちょ、」


目を細めながら顎に手を当てて顔を近づけてきた。やばい、と想った次の瞬間


バリッと言いそうな勢いで俺の身体がジュンから離れた。


「おまえ、あんま調子のるなよ」

「なに?怒ってるの?神田クン」

「怒るに決まってるだろ」

「……相変わらず愛されてるね、憂ちゃん」


良かったね、と言外に言われているようで少し恥ずかしくなった。俺の事情はそれなりに知っているジュンだから。


「…、」

ジュンから開放されたはいいが、今度は怜に後ろから抱きしめられてしまった。不機嫌だし、何かを言ってもしょうがないだろう。ここは好きにさせておくか。と俺は思い黙った。


「だいたいさぁ。早く、話しなよ」

「水野くんもせっかちだねー」

「…」

「ごめんって。そんなに睨まないでってば」

「早くしてよね」

「はいはい」


真哉の我慢限界が来たようで、ものすごい睨みをジュンに送りやっと話が始まった。


「まず、生徒会に俺が協力していることがばれちゃいけないの」


話し出したジュンは笑顔はそのままだったが、雰囲気は変わった。お仕事モードというやつなのだろうか。真哉も怜も些か驚いている様子。


「一つは俺は本来中立の立場ではなくちゃいけないから。もう一つは俺が協力したことによって田中憂がユウである事実を肯定することになるだろうから」

「なるほどね」

「で、ここに来てもらった訳」

「ジュンは何でそこまでしてくれるんだ?」


今の話を聞いて想った。やっぱり何も、ジュンに得な話はない。ジュンは帝さんについていっている黒龍のメンバーだ。ジュンが協力する理由が見あたらない。


「俺、ユウちゃんの為ならなんでもするよ?」

「え、」


きれいな笑顔で言われた。黒さも何も感じない笑顔。純粋なその笑顔は俺には刺激が強すぎた。俺の頬が赤に染まる。

その台詞は女にするべきだろうに。


「チッ」


俺の頭の上、つまり怜から舌打ちの音が聞こえたと思ったら俺の身体に回っている腕の拘束が強まった気がした。


「ユウちゃんはバレたくないんでしょ?」

「…今はまだバレたくない」

「じゃあ、俺が助けてあげる」

「ほんとに…?」

「とりあえずコンタクトしようね」


そう言って渡された黒のカラコン。要は俺のこの特徴である瞳を隠すためのものだとはわかるんだが………。やはり目の中に異物を入れると言うのが怖い。


「怖がんないの。ユウの特徴は目と髪だと会長は想ってるから、固定概念ってすごいよ」

「でも俺黒髪で逢っちゃったよ?」

「一回でしょう?言い訳なんていくらでもできるよ」

「でも…」

「地毛の色に一回染める?」

「嫌だ。髪痛む」

「じゃあ鬘にしようか。髪色については適当に一日染めとかなんとか言ってごまかしてね」

「え?」

「鬘はこっちで用意する」


てきぱきと話が進んでいく。とても心強い味方


「それと、この計画には水野くんの協力がいるんだ」

「え?僕?」

「そう。これがうまく行くと会長は騙されてくれる。決定打が無い限りはユウとは別人だって想ってくれるよ」


「で、その計画ってどんなん?」

「決行するのは今日の放課後」











――――…放課後になり俺はこれから生徒会室に行く。


生徒会室には会長一人、らしい…。会長は俺と一対一で話す気だとジュンが言っていた。

エレベーターの前に着くと会長がいた。その周りには人がたくさん。いつでも彼はたくさんの人の中の中心にいる。その姿を見て改めて、まだ会うわけにはいかないと思う。


「遅かったな」

「会長…」


そういえば、迎えはいらないと言ったはずなのに何故いるんだろうか…。周りから悪口らしき言葉が聞こえたが全部無視だ。今は周りに意識は向けてはいけない。すべて作戦通りに動かなくてはいけない。


「おまえ、生徒会の認証カードがなきゃ上に行けないの、知らないのか」

「あ、……そういえば、」

そう、生徒会室は最上階にあってそこには生徒会と理事長しか行けないように認証カードが必要になってくる。しかし、そこに例外は生じる。情報屋の隼壱はその例外だ。生徒会役員ではないが情報屋の能力を会長が買っているので報告に来れるように認証カードを持ってるらしい。ジュン本人がそう言っていたのを思い出した。


「ほら、行くぞ」

「あ、はい」


俺も周りを無視したが会長も周りを完全無視している。俺達はエレベーターに乗ってふと顔あげたとき。一人の人と目があった


「っ、」

「どうした?」


扉が閉まる時見えたあの人。憎悪にまみれたあの顔。確か、名前は…獅童…葉月。俺でも知っている、会長の親衛隊の隊長。背中に嫌な汗が伝った。


「いや、なんでもないです」

「そうか」


エレベーターの中、沈黙になった。
この沈黙が嫌で、何か話したかったが無駄話をしてバレるような真似はしたくない、と思うと話し出せなかった。


「田中憂」

「はい?」

「中学二年になると同時にこちらに転校したらしいな」

「はい」


調べたのか…そうだよな。名乗ってもいないのに名前を知っているんだから。ある程度は調べたのだろう。


「だから俺たちはお前を知らないんだな」

「俺も会長たちのこと知りませんでしたよ」


貴方たちが、俺の大好きな人たちだったなんて……知らなかったですよ、帝さん……









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