晴天。頭の上が、じりじりと痛い。見上げた太陽の周りに雲はない…。
「カルムー、まだ行くの…?」
「もう少し」
「それさっきも言った!」
カルムの少し、の基準には私と齟齬があるようだ。こんな炎天下の中、普段の私なら絶対外に出ない。というか、わざわざ草むらに入ることは輪をかけて決してない。今日はカルムに連れられ、仕方なく、だ。
ううん、これだと言い方が悪いかな…。何処か出かけようとするカルムに、暇だったからついていくと言った手前、後にはひけないというところ。
「こんなんだとは思ってなかったよ…」
「なにが?」
「ポケモン探し…もとい図鑑埋め」
旅していれば必然的に全ポケモンを見つけられるというようには上手くは出来ていないようで、ジムを回る旅を終えたカルムは、今度は図鑑埋めに勤しんでいるようだ。
「はぁぁ…水筒の中身、なくなったよ」
「サイコソーダでも飲む?」
「えっ!? そんなのあるの!?」
「うわ、びっくりした…何するんだよ?」
「飲み物!」
「はいはい」
勢いに任せて身を乗り出すと、呆れ顔で笑いつつ、カルムは鞄から目当ての缶を探し当てて私に差し出した。涼しげなカラーリングのそれを受け取って、意気揚々と直ぐに開ける。
喉を伝い落ちていく冷たい感覚……を期待したのだけれど、それは大いに裏切られた。
「う……。ぬるい」
「冷えてるわけないだろ……」
「サイコソーダなんて言ったら、普通冷えてるのを想像するよ!!」
期待が大きかっただけに、残念度もうなぎ登りな訳で、私はその温さに顔を顰める。そんな私を見て、カルムがそんなに酷い?と首を傾げた。
「ちょっとくれない?」
「いいよ」
「別に炭酸抜けてる訳じゃないんでしょ?」
「でも美味しくない……」
そんなこと言ってたら旅できない、とカルムが蓋を開けて一気にサイコソーダを飲んだ。傾きに従って壁面を水滴が伝っていく。あ……、今更気付いたけど、これって間接キス!?
「なにナマエ?変な顔して」
「べ、べべべつに!何でもない!」
「……?」
サイコソーダカラーぐらいに涼しげな顔で何も気にも留めてなさそうな反応をされるので、私はそっと横を向いて唇を噛んだ。
そ、そうだよね。カルムはそういう事を意識するタイプじゃないし。気付いてしまったせいで私だけが恥ずかしい。
「確かに美味しくはない」
「でしょ!?」
「…けど、喉乾いてるぶんには普通に飲めるって。というか、飲み物これしかないから我慢して」
「ええ〜…?」
「いけるいける」
にこにことこちらに缶を差し出すカルムに疑いの目を向けつつ、常温のままの缶を受け取る。そこにはまだ少しの重みがあった。カルムはそんなに飲んでいないみたい。
っていうか、飲んでいいの、これ?!
別に回し飲みなんておかしなことではないけど、一旦意識してしまうと躊躇われるというか。嫌じゃないけど勝手に照れがくるというか。
缶を持ったまま再び挙動不審になる私にカルムが不思議そうな顔をした。
「どうしたの?ナマエ」
「あのね、その…」
「あ…」
不自然に躊躇う私に何か気付いたのか、カルムが言葉をもらした。それから僅かな間私の行動に考えを巡らせたようで、
そして多分、カルムの表情を見る限り、それは当たっている。
「ご、ごめんな。飲んだの渡すなんて失礼だった」
「い、いやっ、大丈夫っ!」
「というか、さっき、俺…
ほんとごめん!」
「だ、大丈夫だからっ! その、カルムが嫌じゃなければ!!」
「俺は別に嫌じゃないけど!」
「じゃ、じゃあ、貰う!」
視線を合わせているのが気まずくて、気を逸らすべく少しばかり大きい声を出して缶に唇を寄せる。突然やってきた暑さをどうにかしてくれないかと思いながら一口飲むが、やっぱり好きになれない生温い甘さが広がるばかりで、熱は余計に酷くなった。
ちらり、とカルムを見るとあちらも天気のせいだけじゃない暑さに蝕まれているみたいで、口元に手を当てたまま視線を落としていた。
どうしよう、私だけ意識してると恥ずかしいみたいに思っていたけど、カルムにも意識されると二倍どころじゃなく恥ずかしい。
つ、次に何を言えば良いんだろう!?
なんでこんな暑い中で、余計に暑い思いをしなくちゃいけないのか…。
そんな事にぐるぐると思考を回し始めた矢先、私の視界に影がうつった。それは、こんな炎天下に出てきた本来の目的であり。
「あっ!! か、カルム、ポケモンの影!」
「え、どこ!?」
「あっち…!」
指差した方向にカルムが駆け出そうとして、こちらを振り向いてナマエ、行くよ!と声が掛けられる。
こんなに暑いのに元気だよね、と思いつつ、気まずい雰囲気を有耶無耶にしてくれた草むらの向こうのポケモンに感謝しつつ、私も駆け出したのだった。
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20160906
気付いたら恥ずかしい、両片思いのふたり
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