*ポケマストウヤくんベースに いつものトウヤくんを少し加えた感じです




「はあー……………」


高台から綺麗な光を反射する海を見下ろしながら、大きくため息をついた、午後少し手前…


いつも気の向くままポケモンバトルの道に進み、知り合いからは悩み事なんてなさそう、なんてしばしば言われる私だけれど、残念ながら最近悩み事がある。


そう、WPMの開催を耳にして、ここパシオ島にやってきたことは文句の付け所もないくらい良かったのだ。我ながら素晴らしい行動力だったといえる。


この島に集まっているトレーナーの人たちはみんな強い人ばかりで、旅を初めて2年と少し、一端のエリートトレーナーになった私からしたら本当に夢のような場所だった。ジムリーダーに四天王まで、各地の名の知れたトレーナーたちがこれだけの規模で集まるなんて、今までにそうなかったはず。


そしてこの島に訪れて割と直ぐに出会った、ピカチュウを連れた少年……ケイのチームに誘われ、彼がジムリーダーに次々認められて強いチームのメンバーが増えていくなか、少しの肩身の狭さを感じつつも、個人的には楽しいポケモンバトルの日々を過ごしていたのだけれど。


「どうしたの?ナマエ。そんなところで…」

「あ………」


掛けられた声にはっとして振り向く。そこに居たのは、しばらく前にケイのチームに入ってきたトウヤくんというトレーナーだった。


年齢は私と同じくらいなのに、目深に帽子をかぶり、どこか堂々とした佇まいで…1度だけバトルさせてもらったのだけれど、一応この年でエリートトレーナーと名乗れるまでになった実力を自負していた私より、数段…何段も上の腕前だと思わされた。
彼いわく、イッシュ地方を旅して鍛えてきたらしくて、今相棒にしているミジュマルは元々連れていたダイケンキのたまごから孵った子だとか…。


彼がチームに来てから、多くはないけれど、それなりに話をした。施設で顔を合わせたら、他愛もないお話をしたり…時々、バトルを見かけて、段々自分から赴くようになって、
その実力と……バトルに向ける真剣な眼差しと……勝ったときの嬉しそうな顔……稀に負けた時の悔しそうな表情……
それらは気付いたらどれも私の中で大きなものになってしまっていたし、トウヤくんと話している時間は、心地いいのに、どこか心臓が苦しい気持ちがする。


これをなんて言うのかくらいは知っている。簡単に言ったら、私は恋をしてしまったのだ。


ポケモンバトルばかりに明け暮れて、ポケモンと仲良くなることばかりで、男の子のことなんて考えたことがなかったのに。
だいたい、同い年くらいでは、私の周りで私より強い男の子なんていなかったし、こんなに目を惹かれるバトルをするトレーナーに出会う機会なんてまず無かった。


「ケイが呼んでたよ。今日の練習のチーム、組んで欲しいって頼んでたって」


「あ、そういえば……!」


「忘れてたの?」


ナマエってば、とトウヤくんが笑う。は、恥ずかしい。


「トウヤくんは、今日は…」


「今日も水ポケモンが相棒の3人でチーム組んで、道具を貰いに行くみたいかな」


「そっか……」


2人の行く先がバラバラなのは、別に今に始まったことじゃない。
ケイの判断はただしい。
私の相棒のジバコイルはとくしゅわざを使いこなすアタッカーだけれど、トウヤくんはこうげきわざを使うトレーナーのサポートが得意っていうだけだ。
それだけだ。

それだけだけど、全てだ。

私と組む人はとくしゅわざをサポートしてくれるトレーナーさんだし、トウヤくんと組むのはこうげきわざが強いポケモンを連れているトレーナーさんだ。


このパシオでは3人1組のチームで戦うので、バトルの相性がいいメンバーを固めるのは何も間違ってなくて、だから私は悩んでいるのだ。


効率よくみんなで道具を集めるには、やっぱり強いチームを編成する必要があるから…


けれどトウヤくんがかわいい女の子のトレーナーと一緒に組んで、そのサポートで彼女たちのボケモンが強い技を繰り出して勝利して…そんなふうに、楽しそうにバトルしているところを見たくないって思ってしまう。


隣に自分がいられたらいいのになんて思ってしまうのだ。


そう思い出すと、ぐるぐるとした思考が止まらなくて、だから、最近はトウヤくんのバトルを見に行くのは止めていた。


「ナマエ、悩み事でもあるの?」


俯きがちな私に声が掛かる。ぱ、と顔を上げると、心配そうにトウヤくんがこちらを見ていた。


確かにたいていのことに能天気な私がこんな風にしているのは珍しいし、敏い彼ならすぐに気付くはずだ。


でも思っていること全部を言える訳もない。


「その……少しね、同じ人とずっと組んでいるから、たまには、違う人もチームを組んでみたいなぁ、なんて思ってたの」


「たしかに、それは考えることあるかもしれない」


頷いてから、でも、とトウヤくんは続けた。


「ナマエがそんな事考えてたなんて思わなかった」


「え……どうして?」


「最近のナマエ、よくいつものチームで出掛けていて……その……楽しそうだなと思ってたからさ」


なぜだか少し気まずそうにトウヤくんは言う。確かにいつものチームでバトルに出る機会が最近は多かった。何故って今までトウヤくんのバトルを見に行っていた時間がなくなったぶん、私に時間が出来たからで。


「…見てたの?」


「暇があるとき…少しね」


少し視線をずらしながらそう言われた。そうなんだ。バトルの時は熱中しているからギャラリーが出来ても見ている余裕がなかったし、最近は特に悩みを打ち払うみたいにバトルだけに集中していたのもあって、全然知らなかった。なんだか嬉しい。けど少し、恥ずかしいな。頬が熱くなる。


「前は、ぼくのバトル見に来てくれていたけど」


「あっ…う、うん」


「最近、ナマエがいないなと思って……」


大勢の中に紛れていたと思っていたけど…本人にはばっちり知られていたみたいだ。


「今のチームが気に入ってて、それで良くバトルしてるのかなって」


それは…
100%間違ってはいないけれど、それが全部ではないので、返答に詰まってしまった。
けど、やっぱり本当のことを言えるわけはなくて、頭の中がごちゃごちゃになる。


「というか」


そこにどこか言い出しづらそうなトウヤくんの声が続いた。


「…グリーンさんと、一緒に居たいから、なのかな、って」


「へ?」


全く考えていなかった名前が飛び出したのでびっくりしてしまった。グリーンさん……確かにグリーンさんとはとくこうの高い相棒持ちとしてよくケイに一緒のチームにされる。単純に強いし良い人だなーと思う。トレーナーとして尊敬する気持ちもある、けど、それだけだ。一緒に居たいからとか思ったことはなくて…


勘違いされている!?


「いや!別にそんなんじゃ、なんていうか、単純にケイにお願いされるだけで!」


なんで好きな相手に他の人が気になっているなんて思われてしまうことになってるの!?
気持ちを表に出せない自分も自分だけど…悲しすぎる。


「本当に?」


「ほ、ほんと!」


「ナマエ顔まっかだよ」


「え!?ち、違うって…違うの……」


あああ、どうしてそう、良くない方へ捉えられてしまうの!?


「そうなんだ…うん、べつに誰にも言わないよ」


「本当に勘違いだって…!だって……だって……」


わたし……と言いかけてぎゅっと手を握った。トウヤくんの茶色い瞳がこちらを真っ直ぐに見てる。


っていうか、そんなふうに思われてるなんて、もう脈なんかないんじゃないの。どうして上手に伝えられないの。ポケモンバトルみたいにまっすぐにいかないの!?


どうにでもなっちゃえ。


「わたしが…」


心臓がいたい…。


「わたしが一緒にいたいのはトウヤくんなの……」


「……」


「……」


「……え」


「ばか!トウヤくんのばか!こんなの…こんなの………」


ひどい。


顔があげられなかった。


直接じゃないにしろ、こんなの出来の悪い告白以外のなにものでもないし、だいたい、自分で勝手に言ったのに、なんでトウヤくんに文句を言ってるのか、

だけど、だって…言ったらおしまいだって分かってるのに、勘違いを止めてもらうには、ほんとうのことを言わないといけなくなっちゃったのが苦しくてしょうがないのだ。


どうしよう…。


「…ごめん、ナマエ」


あああ。


「突然で……びっくりしてた」


ううん、って言わなくちゃ。わたしの方がごめんって。


「いいの、そのね、わたしの方が……」


「じゃあ一緒に行こう」


「………へ?」


普通によくわからなくて顔を上げた。
ぱちり、私と視線が合ったトウヤくんは帽子の鍔に手をかけてそっと視線を逸らした。


「ぼくだってナマエといたい」


「え、え、え」


「言ってる意味わかる?」


「トウヤくんが、わたしと一緒にいたいって言った」


「それ、よく分かってないじゃん」


目深に被った帽子の下でトウヤくんが眉を寄せた。


「好きだよ。ナマエ」







***

おまけ?




「ふーん、へーえ、ほーお」


ニコニコとトウコちゃんがわたしとトウヤくんの間で繋がれた手を見ていた。


「仲良しね! それも普通じゃないくらい」


「特別だからね」


「うわー! うわー!」


トウコちゃんのニコニコ度が増した。わたしの頬はもっと熱くなった。


トウコちゃんは今まであまり話をする機会が無かったのだけれど、本当につい最近、ケイのチームに入ってきて仲良くなったお友達だ。


トウヤくんとは元々イッシュ出身同士チームを組んでいて、付き合いも長いらしくて、前からトウヤくんといるのを度々見掛けられていたらしく、初対面でもう既に私の気持ちはバレバレだったみたいだった。


応援するからね! と言ってくれていたから、お礼も言えたらと思っていたのだけれど。


「ナマエがグリーンさんにお熱とか言うから余計な心配したじゃないか」


「それくらい焚き付けないと動かなかったでしょ! 結局結果オーライみたいだし…」


何事もやってみないと! とトウコちゃんがウィンクする。それ、トウコちゃんの差し金だったの!?


「結構本当っぽかったでしょ。ナマエとよく話してるし…


それで、何か用事?」


「今日はナマエとチーム組むって話つけてきたんだ。来ないかと思って」


「へえー!」


トウコちゃんがまたはち切れんばかりの笑顔になった。


「行ってもいいけど…折角だからダブルバトルはどう? チェレンが暇そうにしてたし」


「なるほどね」


ナマエもいいかな? とトウコちゃんが聞いてきたのでもちろん、と頷く。


「あっちの広場が空いてるみたいだから、あそこでバトルしましょ」


「わかった。行こう、ナマエ」


「あ、う、うん!」


引かれた手が嬉し恥ずかし、人前ではなんだか慣れなくてわたわたとしていると、トウコちゃんがまたにっこりと微笑んだ。


「良かったね、ナマエ。今日は私たちのことは気にしないでたくさんいちゃついていいよ!ね!」


「ありがとう…でもそんな……しないって…!」


「えー?なんで? いいじゃない? ねー?」


「なんでも!」


「ええー?」


トウコちゃんは今日は当分ニコニコしていそうだった。




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2019.10.01

ポケマストウヤくん トウコちゃん 実装本当に本当におめでとうございます!
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