部屋に入っていの一番に私はベッドに倒れ伏した。枕の中に顔が埋もれる。息がちょっと苦しいけれど、それすら気にならないくらいに今の私は疲れていた。楽しい疲れじゃなくてあまり嬉しくない疲れだから、声のトーンはどうしても投げ遣りな感じになった。

「疲れた」
「そんなに?」
「!?」

案外と近くから響いた声に、思わず飛び起きて声の主を視界に捉える。開けっ放しの窓、その先でトウヤが笑っていた。

「お、お母さん窓閉めてなかったの…」
「夕方開けたっぽいな」

私とトウヤの部屋は何故か向き合っていて(多分家のつくりが対称になってるせいだ)お互いの部屋の窓の間は建設法大丈夫?ってくらいの近さであり、昔は窓を通して会話するのが何と無く楽しかった時もあった。しかし今となっては窓をキチンと閉めてカーテンをひいておかないと学生には唯一のプライベートエリアがプの字も見当たらないくらいに見られてしまう。しかもそれが女の子なら未だしも、トウヤは綺麗な顔こそしているが確実に男子であった。一応女子の端くれとして汚い部屋をさらけ出すというのには抵抗があるし、まあ散らからないよう気を付けてはいるのだけれど。忙しい時というのはどうにもそういうことが手付かずになるわけで。

「ちょ、トウヤの馬鹿ー!今すぐ後ろ向いて!」
「なんで」
「部屋片してないんだから!」
「今更…」

若干呆れ顔のトウヤの後ろに見える部屋は至ってシンプルで必要最低限の物しか見えない。物が無ければ散らからないを体現してるかのようだ。

「別によくね?」
「よくないし!もー、カーテン閉めるからね!」
「まあ別にいいけど…」

お隣さんと会話を続ける気力もほぼ底をつきかけている今、カーテンを閉めるという手っ取り早い最終手段に手をかけた私に、向かい側でトウヤも暗闇に溶けそうな淡い色のカーテンに手を伸ばした。それから、ふと思い出した様に口を開く。

「お疲れ」
「…ありがと」
「お前が頑張ってるの、知ってるし。じゃ。お休み、ナマエ」
「う、うん」

何にそんなに疲れているとか、苛々しているだとか、そういうことを聞かないでちょっとの気遣いを残してトウヤはカーテンの向こうにいなくなる。さっと引かれた薄いカラーのカーテンが、少しだけ余韻を残して揺れている。

「……」

私も窓をゆっくり閉めて、今年新調したカーテンを引いて、それから、足から崩れる様にそこに座り込んだ。大丈夫、薄目の窓だけど防音はそこそこだ。まさか扉の外で妹が耳音を立ててたりもしないだろう。

「…そういうのずるい…」

弱ってる時にさりげなくそういう事を言われるのが、私のことを分かってくれている辺りが、どうしようもなく心地よくて、どうしようもなく気恥ずかしいというか。照れてしまうというか。

長い付き合いだと、そういう対象には見えないと良く言われるけれど。寧ろ。

「離れられないだろうなって、そんなの相当だ…」

私は零れるようにそう呟いてから、もう一回枕の上にうつ伏せになった。




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20140728
さりげなく慰めてくれるこんな隣人はどちらにいらっしゃいますか


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