「あーっもーっ!!」


閑静な住宅街に響いた私の声は悲壮感が溢れんばかりだったに違いない。最新型のコントローラーを投げ出して、テーブルの上へ伏せる。視界の端では赤い字体のyou loseの字が痛いくらいに点滅している。これはつまり、今話題のテレビゲームでトウヤに五十連敗という逆に凄い記録を叩き出したということだ。


「もうやらない!」
「落ち着けって。三度目の正直って知ってる?」
「それ…五十一度目でも適用されるもの?」
「勿論二度あることはともいうけど」
「励ます気ゼロじゃん!」


訝しげに尋ねればあっけらかんとトウヤは言い切った。というか元々そっちの説を支持していたに違いない。


「ほら、もっかいやろうぜ」
「…」


呼び掛けられたのはきちんと耳に届いたが、私は聞こえなかったふりを決め込んだ。そりゃあね、勝てもしないゲームを何十回もやったら、飽きがくるってものですよ。


無言を通していると、トウヤがこちらに来る気配がした。私の座るソファーのすぐ隣が重みにちょっとばかり軋む。


「拗ねてんの?」
「…拗ねてないけど」


可愛い、なんてわざと耳元に寄せた唇で囁く確信犯はその手を火照った私の頬に伸ばした。明らかに手玉に取られている。く…余裕綽々って!!


「もういい! 私寝るから!」
「じゃあ俺も」
「ついてこなくっていいです!」


そうはっきり断言したのにトウヤは右から左に受け流したのか、律儀に私の後ろをついてきた。壁に顔を向けて布団を被るのはいいが、後ろから感じる気配に気が休まらない。そればかりでなく、何を思ったか突然掛け布団が持ち上がったかと思えば、人一人分だけ空いた空間に入り込んでくるトウヤ。狭いのに!!


「私は静かに寝たいんだけど!」
「何もしないけど?」
「本当でしょうね?」
「してほしいって暗に言ってんの?」
「言葉そのままに聞いてるだけです!」


もう反応しても無駄だと判断した私は口を噤んだ。どうせ、勝ち目なんてありっこないし。このまま起きていてもからかわれて一人心臓に負担をもらうだけに違いない。いや、嫌な負担では全くないのだけれど、それでも確実に私のピュアハートはライフがゼロになること間違いなしだ。


「わ、私寝るからね!おやすみ!!」
「分かった。…おやすみ」


あんたも寝るんかい、とつっこみたかったのだけれど、耳元の酷く柔らかな声音と背中側から大切なものを扱うみたいな抱きしめ方に喉元を下りていってしまった。
ななな、なに!?
耳に残る声が私をくすぐっては流れて消えてくれない。おまけにしっかりと回された手とか抱きすくめられている感覚に、穏やかな気持ちでなんていられるはずもない。早鐘をうってる心臓の音は、後ろのこいつには絶対ばれているに違いない…のに、眠ってしまったように静かにしているトウヤ。


こんなの…眠れるわけないじゃん、バカ!


結局私のライフは、ゼロ間近まで削られること間違いなしだ。


このときを切り取って




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20131109
Thanks request!
ゆう様へ
「トウヤくんと家でゴロゴロい ちゃいちゃ」

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