私達は極々平凡な町で暮らしている。けれど定期的に新しい人が訪れてくれるから楽しい。この地方でもやはりトレーナーはいて、彼らは大抵旅をする。それは年齢は関係ないけれど、やっぱり私と同年代くらいの人が多い。目をキラキラさせて、ポケモンバトルについて楽しそうに語るそんな人たち。私はそれだけで幸せになってしまう。

「でも、やっぱりポケモンバトルはやった方が楽しいの?」
「それはそうだろうね」

チェレンは資料に目を通しながら私に言った。人の話は目を見て、って習わなかった?

「真面目に聞いてるんだよ私」
「知ってるよ」
「じゃあこっち向いて…」

仕方ないなというようにチェレンが椅子を回す。あ、やだな。私がだだをこねたみたいで。

「僕に聞かないでやってみたらいいよ」
「トウコとやったよ。でも全部負けちゃって見てる方が楽しいなって思ったんだけど」
「選んだ相手が問題だね」
「やっぱり?」

でも強い相手に勝つのは楽しいよ、とチェレンは優しい笑みを浮かべた。それが凄く嬉しい。昔旅に出たチェレンは、時々ここに帰ってきては強くならないと、って酷く恐い顔をしていたから。

「じゃあ、ジムリーダーって楽しい?」
「楽しいことばかりじゃないよ」

事務仕事はあるし、単純に強いだけでもいけない、とチェレンは瞳の奥に遠い光を宿して呟いた。

「じゃあどうしてチェレンはトレーナーを止めてジムリーダーになったの?」
「ナマエが格好いいって言ってくれるから、かな」

予想と全然違う、斜め上の返答に思わず変な顔をする。確かにことあるごとに、慕われるジムリーダーのチェレンをそんな風に誉めたけど。チェレンはくつくつと喉を鳴らして笑った。

「案外、単純でしょ?」
「凄く」
「それでいいんだよ」
「私が言うだけで嬉しいの?」
「そう」
「そっかあ…」

何か堪らなくチェレンが愛おしくなって、たまらず腕に力を込める。抱えていたチラーミィのぬいぐるみが、ちょっと苦しそうに縮んだ。




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20131027

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