※カウントダウンの作品により、原作と違うかもしれません。ご容赦ください。






ブティックから出てきたカルムが、私の前で眉を下げた。

「あの…ナマエ。おかしくない?」
「全然!!」

服装一つで、人ってこんなに変わるのね!


***


旅の途中で寄ったブティックで私達は時間を潰していた。この手のものはやはり女の子の方が盛り上がるものなのだろうか、張り切る私に比べてカルムは若干引き気味だったのを覚えている。勿論そこまで意気込んでいたのは訳があって、つまり私も腐っても女の子。(腐ってないけど!)好きな人には可愛い格好を見せたいという気持ちがある故だ。旅に出てからというもの機能性のある服ばかり身につけていたせいで、気を引けるような格好が出来た覚えはない。これはチャーンス!と思ったのは確かだ。確かなんだけど。

「寧ろ返り討ち…」
「え?何が?」
「なんでもない!」
「そうか?」

新しい服に心を惹かれてしまったのは私の方でありまして。隣をちらりと見ると、質の良さそうなジャケットから覗くモノクロのボーダーに、下はお洒落なジーンズとブーツ。お洒落事情に詳しくはないけれど、かっこいいのは分かる。バトルに強いトレーナーはファッションセンスも優れているんだろうか。これ以上私を誘惑してどうするの!?

「ナマエ?」
「はっ…な、なに?カルム」
「やっぱりさっきからおかしいぞ。…そんなにオレの格好、変?」
「やっ!変なんてまさか!そんな訳ないでしょ!」

慌てて否定するけれどカルムは納得いかなさそうに自分の服に視線を落としている。

「ナマエに仕立ててもらえば良かったかな」
「いや、今で十分だよ!」

大体私の方が落ち込んでいる。だって、少なくともカルムよりは雑誌なんかにも目を通しているし、ナイスなチョイスが出来ていて然るべきなのに。こうして並んでみれば、全然だ。あまり変えるのもどうかと思って無難な選択にしたせいか、街を歩く他の女の子の方がよっぽどお洒落に決めている。なんだか隣を歩くのが、はずかしいくらい。

「センスが欲しい…」
「え?なんで」
「カルムはなーんでも出来ちゃうじゃない。その服だって絶対おかしくなんかないし…むしろ凄い似合ってるし…」
「そ、そうか?」

ちょっと隣の雰囲気が柔らかくなった気がした。

「良かった。オレ、ナマエと釣り合ってないんじゃないかって思ってた」
「え?わ、私と?」
「そう」

人差し指を頬に持っていって、照れているのかなんとなく気まずそうな表情でカルムが言う。

「普段の服もナマエらしくて良いけど、その服も似合ってる。…かわいい、よ」

頭の中が爆発した。いやしてはないんだけど、爆発したくらいの衝撃派が通っていった。面と向かってそんなこと言われるなんて。私の部屋に積み上がっている雑誌達も報われたってものだ。

「あああ、ありがとう」
「うん」

お互い視線は明後日の方向で、何言ってんだか分からないって感じだけれど、それでも一緒に隣を進む。

嬉しい、な。

勝手に緩んでくる頬に手を当てたい気持ちを抑えながら通りを進む。見慣れた雑多な光景も、何だか素敵な街並みに見えてくる…現金な私。くすりと笑うと、どちらともなくお互いの間で指先が絡んだ。



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20131012
当日!発売おめでとう!

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