Metempsychosis
Material Note

月夜ばかりと思うなよ?

時刻は深夜。
誰もが寝静まった領主邸内を、カンタビレは1人歩いていた。

警備に立つ兵士に見つからず、1つの扉の前に立つと、ノックもせずに開く。

「「!?」」
「邪魔するよ」

敵襲かと身構える二人…クレインとローエンに平然と言い、カンタビレはクレインの執務室に入って扉を閉じた。

「忠告しとこうかと思ってね」
「忠告?」

訝し気に眉を寄せる二人に、カンタビレは言った。

「あんた、殺されるよ」
「!!」
「それは、どういう…」

勘、と、常のカンタビレならば言っただろう。
しかし、今回は確信があった。

「理由を、伺えますか?」

言って、ローエンがクレインの対面のソファを勧めるのを、カンタビレは首を振って断った。
それを気にした様子もなく、ローエンは柔和に微笑んで引き下がる。

「最初に変だと思ったのは、ナハティガルが強制徴用したのが、あんたのトコの民だった事。人手が欲しいなら、従順でないあんたのトコ以外の、従順で立場の弱いトコからの方が楽なのは分かりきってる。余計な詮索もされないだろうさ」
「確かに…」
「あんたがナハティガルの政権に不満を持っているのは有名らしいじゃないか?そんなあんたの鼻先から民を連れていくメリットは?」

問い掛けに考え込んだクレインの後ろで、ローエンはハッと息を止める。

「…旦那様を誘い出す為…」

その『答え』に、カンタビレは頷いた。

「ア・ジュールとの戦争も近いようだし。そうなった時にあんたが謀反しない保証はない。寧ろいつしてもおかしくないと思われてても不思議はないんじゃないかい?」

そんな不穏分子、潰しておいて損はない。

ミラ達によって救出されたとは言え、あのままであれば間違いなく死んでいた。
ナハティガル側にすれば、実験の糧にも出来て一石二鳥だったろう。

「でも、あんたは生きてる。それは向こうももう知ってるだろう。となれば、」
「謀反の証拠を捏造して捕縛、くらいは平気でするでしょうね」
「あたしだったら手っ取り早く暗殺しちまうけどね」
「……………」

明け透けなカンタビレの発言に、クレインが固まった。

「言いたいことはそれだけさ。精々死なないように気をつけな」
「え!カンタビレさ」

引き留めようとするクレインに構わず、本当に言いたい事だけ言って、カンタビレは執務室を後にした。
(実際忠告しないで死なれては後味が悪いと思ったからとった行動である。)

用意された部屋に戻りつつ、カンタビレは思案する。

更に遡れば、サマンガン街道の検問も不可解だった 。

何故、樹海の前に見張りを置かなかった?
樹海を抜けるルートが民に実用されていないのは当たり前だが、その事を知る者は多いと言える。
なのに、だ。

まるで、

「……泳がされてる」

そう思えてならない。

誰が?

勿論─────────ミラ・マクスウェルが、である。



執筆 20121013
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