Metempsychosis
Material Note
不信感
いつからか、と問われれば、最初から。
むしろ、安心して背を預けられる奴ではないと、油断せずに過ごしてきた。
自らが追われる立場になりかねないのにジュードを助け、ミラに同行。
異世界について村長に尋ねようとすればわざととしか思えないタイミングで邪魔をされた。
その際にはこちらを庇うような様子も見えた。
依頼を終えても理由を付けてまだ同行。
イバルに頼まれたと言っていたが、嘘臭い。
エリーゼをやけに庇うのも気になる。
ハ・ミルで初めてティポを見た時の反応といい、樹海でエリーゼの術を見た時といい。
品定めをするような、酷く冷たい眼をしていた。
カンタビレが思うに、あのアルヴィンと言う男は…………
ジャオと言うらしい大男からジュードの機転で何とか逃げ延び、カラハ・シャールに到着したミラ達とカンタビレ。
街のあちこちに配備されたラ・シュガル兵(しかも親衛隊…つまりはエリート)を然り気無く避けつつ、買い物客を装って情報を集める。
そんな時、イフリート紋の贋作を掴まされそうになっていた少女(世話役らしき老人を連れているあたり、結構なお嬢様だろう)を、ミラが無意識に…善意も悪意もない、ただ事実を述べただけで…結果的には助けた。
少女は結局贋作を買ったが、【イフリート紋だから】ではなく【素敵だから】と言う理由で買ったのだから不満はないのだろう。(店主もちゃんと大幅に値引きしていた)
その少女はドロッセル・K・シャール、老人は執事のローエンと名乗った。
シャール。
その家名でカンタビレは彼女が領主の家系に列なる者だと気付いたが、ミラ達はアルヴィンが考えるより早く快諾してしまったからか、気付かなかったようだった。
カンタビレはちらりとアルヴィンを見る。
シャールの家名に彼が気付かなかった訳がない。
(………何を企んでいるんだか)
で、結局。
ドロッセルはカラハ・シャールの領主、クレイン・K・シャールの妹で、
アルヴィンはクレインにミラ達を売った。
幸いクレインはミラ達の持つ情報を聞いただけで解放してくれたが、ミラ達を売った張本人は広場で鳥で手紙をやり取りし、こちらに気付くと平然と合流する。
当然カンタビレ以外の三人は怒りを露にした。
(カンタビレが含まれないのは、アルヴィンが生理現象と言って一同から離れた辺りで、先の展開を予想していた為に、怒りより些かうんざりといった気持ちが強いからである)
素直に膨れるジュードやエリーゼ、バホー!と言いながら飛びつこうとするティポ、真意を見定めるように睨み据えるミラ。
そんな三人はに、アルヴィンはやはり飄々と言うのだ 。
「売ったなんて人聞きの悪い。シャール卿が、今の政権に不満を持ってるってのは有名な話だからな。情報を得るにはうってつけだ。交換でこっちの情報を出しただけ。良い情報聞けたろ?」
と。
利にかなっているような気がしなくもない言い訳に、実際有力な情報を得られたからか、ミラはとりあえず怒りを納め、先の事に思考を巡らせる事にしたようだった。
…確かに大きくなっただろう不信感に蓋をして。
カンタビ レが思うに、アルヴィンと言う男は…………………
……………………決して『味方』にならない……なれない……そんな男である。
執筆 20120930- 24 -
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