Metempsychosis
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子供と子供と子供?

サマンガン海停に到着した一行は、カラハ・シャールを目指して街道に出た。
ところが、である。

「検問か」
「ま、当然だな。そんなうまい話は無いって」

カンタビレが海停に貼られていた手配書で予想していた通り、街道の一番狭まった辺りに、数十人のラ・シュガル兵の姿があり、荷馬車の中を調べている。

「どうしよう…」
「道が無い訳じゃないけどねぇ…」

言って、カンタビレは検問の手前、丁度死角となる方向に聳える崖をちらと見た。
視線の先に何があるのか気づいたジュードは、難しく眉を寄せる。

「樹海…」
「上手く抜けるとカラハ・シャールの街に出られるが…」
「迷う必要はないな」

即決したミラを、ジュードが慌てて引き止める。

「滅多に人が立ち入らないんだよ?エリーゼには…」
「こうなる事は予期出来たろう」

スッパリ切り捨てられて、しかし納得いかないジュードはミラと無言で睨み合う。

カンタビレに言わせればどっちもどっち。
目先に捕らわれてエリーゼを連れ出したジュードも思慮不足だし、先を急ぐのだろうがミラも言葉が足りない。
ジュードが一緒に来るのを認めたならば、もう少し話をすれば良いものを。

そんな事を思いながらカンタビレが傍観していると、険悪な雰囲気に耐えられなかったのか、エリーゼが言った。

「…わたし…あの、だいじょうぶ…です…だから…」
「ケンカしないでー。友達でしょー」
「エリーゼ…」
「エリーゼも納得した。これで文句はあるまい」

いや、ただあんた等に気を使っただけだろう。
カンタビレは内心でツッコミつつ、これ見よがしな嘆息した。

「樹海を抜けるつもりなら、一度海停に戻って準備を調えたらどうだい?」
「ま、その方がいいだろうな。どんだけ時間が掛かるかもわからねぇんだ」
「ふむ、そうだな…」



そうして戻ったサマンガン海停。
さらに出発は明日になり、宿屋で受付をすませた後、ミラ、ジュード、アルヴィンの三人はアイテム等の買い出しに、カンタビレはエリーゼと宿屋で留守番となった。

さっさと休むべく部屋のベッドに座ったカンタビレの耳に、小さな小さな呟きが届く。

「…わたし…どうしたら…」

カンタビレは深く嘆息した。
こんな子供に気を使わせている二人に。
エリーゼは子供だからと侮っている二人に。
子供と言うのは、大人が考えている以上に悟い。
自分が二人の不和の原因だと気づかぬ訳がないというのに。

そしてぎゅっとティポを抱き締めるエリーゼに、少し迷ってカンタビレは問うた。

「あんたはどうしたいんだい?」
「え?」

キョトンと瞬くエリーゼに、更に言う。

「ジュードはあんたを連れ出した責任を、誰か信頼出来る人に預ける事で果たそうとしてる。それは分かってるね?」
「はい…」
「ミラは…」
「あ…わたしの…せい、ですよね…」
「…まぁ、急ぐのに慣れない団体行動に苛ついてるんだろうね」

しょんぼりと俯いてしまったエリーゼに、カンタビレはもう一度問い掛ける。

「あんたは…エリーゼは、どうしたいんだい?」
「わたし…?」
「ジュードの見つけた人に預けられて、平和に暮らしたいのか、ミラに足手まといと思われながらも着いてきたいのか」
「…足手、まとい…」

キツい言い方だろうが、事実だと思うカンタビレは敢えて優しい言葉を選ばなかった。

「今のままなら、そうだろうね。でもね、ミラやジュードがどうするかじゃない。足手まといになるかどうかは、やり方次第でどうとでもなる。大事なのは、エリーゼがどうしたいかなんだよ」
「わたし、が…」

三度目の言葉に、エリーゼが初めてカンタビレを正面から見る。

「わ、わたしは…」

と、

「今戻ったぞ。二人とも、食事にしよう」

お腹をぎゅうぎゅう鳴らしたミラの登場で、真剣な雰囲気は呆気なく霧散した。

「…早かったね。準備は万端なのかい?」
「うむ、空腹の気配を感じて、急いで買って来たのだ」

カンタビレは腹の虫をぎゅうぎゅう鳴らしながら買い物をするミラを想像して、嘆息と共に脱力した。



執筆 20120929
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