Metempsychosis
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己が使命

その問い掛けが来るだろう事は予想していた。
アルヴィンに訊いたのだから、当然自分にも、と。

だから、

「カンタビレは?成すべき事って、あるの?」
「あるよ」

ジュードの問い掛けに、カンタビレは間髪入れずに答えた。

おいおい、とアルヴィンが呆れたような、少し責めるような視線を向けてくる。
折角自分が気を使って答えたんだから、空気を読めとでも言いたいのだろうが、カンタビレの知った事ではない。

そんな中、問い掛けた当人であるジュードはと言えば、

「そ…そう…」

辛そうに、俯いてしまった。
内心はさぞかし焦っている事だろう。
アルヴィンの言葉を借りるなら、『僕も決めなきゃ〜』と。

少しして、チラチラと此方を窺って来るのに、カンタビレは目を細める。

「それは何かって?」
「う、うん…」

予想通りの答えに小さく嘆息して、カンタビレは青々と広がる空を見上げた。

「ある御方を、そのお側で守り、支え、見守る事」
「ある御方?」

目を瞬かせるジュードに、カンタビレは頷く。

「あたしが忠誠を誓った、唯一無二の主ーーーーーーフィエラ様さ」

そう、名を口にしたカンタビレは、まるで空の先に相手がいるかのように微笑んだ。

その微笑みは、今まで見た事もないくらい柔らかく、温かく、そして寂しげで、

「カンタビレ…」

詳しい事情をジュード達は知らない。
それでも、カンタビレが相手をどれ程大切に想っているのかはありありと伝わって来た。

そんなカンタビレに、ジュードと同じく驚いていたアルヴィンが言う。

「意外だな。おたく、そーゆーしがらみとか嫌いそうなのに」
「勿論好かないさ。言ったろう?『唯一無二の主』って」
「確かにな」

肩を竦めたアルヴィンから、カンタビレは視線をジュードに移した。

「『使命』なんて大仰に考える事はないさ」
「え?」

唐突な言葉にジュードは戸惑う。
それもそうだろう。
『使命』が大仰でない訳はない。
しかし、それに構わずカンタビレは続けた。

「要は何に重きを置くか…自分が何を望み、優先するか。そして、如何にそれを貫くかだと、あたしは思ってる」
「何を望み…優先するか…如何に貫くか…」

ただ復唱するジュードに、カンタビレは少しだけ視線を鋭くする。
ビクッと身構えたジュードの頭に手を乗せて、

「『どんな選択をしようとも、その責を負うのは自分自身』だからね。…後悔しないように、精々考えるんだね」

そう言ってジュードの頭をぐしゃぐしゃと撫でて、カンタビレはジュード達から離れた。

「後悔しないように…か…」

小さな呟きは誰のものか、カンタビレは知る由もない。



執筆 20120428
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