Metempsychosis
Material Note

よい子も悪い子も真似しちゃいけません。

それは、無事に精霊の里 ニ・アケリアに到着し、不在らしい巫子に代わって集めた『世精石』を社へ運び、ミラが『四大精来還の儀』という儀式を行った直後。

砕け散った世精石と、体力の消耗が激しいのか、床に両手を着いて大きく息を乱すミラに、異常を感じてジュードが近付こうとした時に騒がしくも現れた。

「ミラ様!」

飛び込むように社に入ってきた少年は、ミラの前に立っていた男2人を押し退けて、片膝を着いて頭を垂れる。

「イバルか」
「ミラ様。心配いたしました」

未だに息の乱れが治まらないままにミラが少年…イバルを見るのを壁に寄りかかって静観しながら、あれが件の巫子殿か…とカンタビレは目を細めた。

冷静沈着なタイプではない事は見て取れる。
事は慎重に調べようと思っているが、転がし易そうな人柄はカンタビレとしてはやりやすい。

そんな事を考えている間に、ミラ達がこれまでの経緯を説明したらしく、今は大人しくミラの前で正座しているイバルがいた。

「そんな事が…」
「んで、精霊が召喚出来ないのって、そいつ等が死んだって事?」

と、やる気無さ気に発言したアルヴィンを、無駄にビシッと指差して、イバルはフフンと鼻を鳴らす。
ほんのりカンタビレはイラッとした。

「バカが。大精霊が死ぬものか」
「あれ。常識?」

アルヴィンが訊いた相手はジュードだったのだが、それを遮ってイバルが偉そうに説明をして下さった。
やっぱりほんのりカンタビレはイラッとした。

曰く、どんな精霊であろうとも死ねば化石となり、力は次の大精霊へと受け継がれるものなのだと。
(ジュードが言うには見た人はいないらしいが)

「存在は決して死なない幽世の住人。それが精霊だ」

それまで黙って聞いていたカンタビレだったが、ふと、

「死んでないなら捕まったんじゃないかい?」

と、思った事を言ってみる。
すると、

「バカが!」

と、イバルは無駄にビシッと指を差してきた。

これにはちょ〜っとぶちっとキタ。

指を差し続けるイバルに、カンタビレはすぅつと壁から離れ、

「…………」
「人間が四大様を捕らえられる筈がない゙っ!」

グキッと、指が本来曲がらない方向へと、反らしてやった。
あと少し力が強ければ折れる、という絶妙な力加減で。

よい子も悪い子も真似しちゃいけません。

痛みに身悶えているイバルを、カンタビレはフンと嗤った。

「マクスウェル様の巫子ってのがどんだけ偉いか知らないが、あたしには躾のなってない駄犬にしか見えないね」
「き、さまぁ!」

激昂しかけたイバルを止めたのはミラだった。

「止めろ、イバル」
「し、しかし!」

コイツが!と言いつつ此方を指差さない辺り、少しは学習したのだろう。
鳥頭っぽいので暫くすると忘れそうだがと思いながら、カンタビレはしれっと元居た場所に戻った。

「…カンタビレの言うとおりじゃないかな」

それまで考え込んでいたジュードの言葉に、全員の視線が彼に向かった。

「さっきも言っただろう!人間が」
「けど、その四大精霊が主の召喚に応じないんでしょ?有り得ない事でも、他に可能性がないなら、真実になり得るんだよ」
「何もない空間で、卵がひとりでに潰れた場合、その原因は卵の中にある…。『ハオの卵理論』ってやつだな。さっすが優等生」

カンタビレは初耳な理論だが、アルヴィンが知っているならばそれなりに常識なのだろう。

イバルが超悔しそうにぐぐぐ…と唸る中、ミラがぽつりと何かを呟く。
しかしその声はあまりに小さく、彼女以外の誰にも届く事はなかった。



執筆 20120506

イバルとは絶対に仲良くなれない。

修正 20120520

攻略本を読んだ所、イバルはジュードの一歳上の16歳だと知ったので、『青年』から『少年』に修正しました。

16歳って微妙な年齢ですけど、カンタビレから見たらまだまだガキンチョだろうと思ったんです。
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