Metempsychosis
in Tales of Graces f
Attaccare
「……困ったわ…」
家と家の狭間で、フィエラは小さく嘆息した。
辺りは激しい剣戟や砲撃の音にラント領民達の悲鳴や兵士達の怒鳴り声が入り混じり、混乱状態となっている。
ラントにストラタ、そしてバロニアの軍服が入り混じっている事が、更に混乱を増す要因となっていた。
最近の自分はどうにも間が悪いと思って、フィエラは小さく嘆息する。
と、
「…フィエラ?」
名を、呼ばれた。
ここで呼ばれる筈のない名前で。
しかもその声には聞き覚えもあって、思わずハッと顔を上げれば、その先にはやはり思った通りの相手…マリク・シザースが、驚きも露わに家々の狭間にちょこんと座り込むフィエラを見下ろしていた。
「あら、マリクさん。こんにちは」
「どうして…」
暢気に挨拶するフィエラに、マリクは何故こんな所にいるのかと訊きたかったのだろうが、状況を思い出して急かすようにフィエラを狭間から引っ張り出す。
「あら?」
「そんな所にいたんじゃ巻き込まれるぞ!こっちへ逃げるんだ!」
「あらあら?」
急な動きに目を瞬かせるフィエラの腕を取り、マリクは人々が逃げる方向に向かって走り出した、その時。
「…っ!!」
不意に、ひどく懐かしいような、哀しいような、不思議な感覚に捕らわれ、フィエラはピタリと足を止めた。
そして、じっと、ある方向を見つめる。
「!?…フィエラ?」
突然止まったフィエラをマリクが強く促すが、まるで聞こえていないかのように動かない。
そんなフィエラの視線はとても遠く…、そう、丁度ラント領主邸の方に向いているように見える。
「……………」
「フィエラ…!?」
ふらりと、フィエラは歩き出した。
視線の先…ラント領主邸に向かって。
ーーーーーー…行かなくては…
フィエラはそう思った。
何故かは分からない。
でも、行きたいと…、
あいたい…と、思って…。
気づけば、駆け出していた。
マリクの声も、逃げ惑う人々の声も、総てを排除して、
ただただ、この先にいる何かを求めて…。
すぐに体力は尽き、息が上がっても、ただただ走った。
「待て!フィエラ!」
「……っ!」
漸くラント領主邸に程近くに来た辺りで後を追って来たのだろうマリクにあっさり捕まる事になったが、それを振り解いてまで先へ行こうとするフィエラを行かすまいと、マリクも力を入れて押さえようとする。
その時だった。
ラント領主邸のある辺りから、突如として2つの光が発現し、争うようにぶつかり合うのが見えたかと思えば、その余波なのだろう、激しい突風がラント中に吹き荒れる。
「く…っ」
「……っ」
マリクに捕まっていた為に何とか飛ばされずに済んでいたが、そんな中でもやはり感じる衝動に、風が治まり始め、マリクの力が緩んだ隙に、フィエラ再び駆け出す。
ラント領主邸までの距離はあと僅かだったが、フィエラの体力も限界だった。
だから、だろうか。
破壊された噴水や、美しく手入れされていただろう庭よりも。
武器を手にとって戦い、傷ついたのだろうアスベル達よりも。
叩きつけられたのか、遠い岩壁からふらふらと立ち上がる、金髪の青年の、
こちらを見て、驚愕に見開かれたその紅い瞳に、何よりも安堵して…、
フィエラはぷっつりと、意識を手離した。
執筆 20110615
attaccare = [伊]攻める
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