Metempsychosis
in Tales of Graces f

Lhant

フィエラがラントに到着したのは、それから1ヶ月以上が経過した頃だった。

と言うのも、亀車を使い、のんびりとグレルサイド経由で向かおうとバロニアを発ったはいいが、間の悪い事に何かの争いが勃発したらしく、ウォールブリッジが閉ざされていて、暫く亀車が動かなかったのである。
お陰で暫く宿屋生活を余儀なくされた。
とは言っても、バロニアで貯めに貯めたガルドはまだまだ余裕なのだけれど。

それから暫くして、ウォールブリッジが開いたと知らされ、漸くラントに到着するに至ったのだった。

が、しかし。

「…うーん」

フィエラは宿屋の一室の窓辺に座り、難しい顔で唸っていた。
へにゃりと下がった眉尻からは、難しいというより情けないと言った形容が正しいのだろうが、あくまで難しい顔なのだ。本人的には。たぶん。

「……穏やかな気風と聞いていたのだけれど…」

困ったわ…と小さく嘆息した。

窓からは、緑豊かな自然と風を受けて廻る風車が見え、子供達の遊ぶ声も聞こえ、一見すれば大変平穏な空気と感じるだろう。

が、しかし、無視出来そうにないものも多い。

子供に気取らせまいとしても、大人同士の会話にはどこか不安な色が混じっていた。

それに、と、フィエラは視界に点在する青に目を向ける。

ラントに到着して知った事だが、ウィンドルがストラタと同盟を結んだらしく、フェンデルに侵攻されて窮地にあったラントをストラタ軍が撃退し、そのまま駐留しているのだと、宿屋の女将さんが熱く熱ぅく語ってくれた。
(何でもその軍を率いているのが、養子に出された今は亡きラント領主の次男なのだそうだ。)

「……うーん」

フィエラはまた唸りながら、手していた数枚の紙を見る。
それらは言うまでもなく、求人募集のチラシだったが、生憎とフィエラに合う求人はなかった。
更にはこのピリピリした空気。

「…此処は無理かしらねぇ」

今回は間が悪かったのだと、早々に判断したフィエラは、明日は出立の準備と休息にあて、明後日出立する旨を宿屋に伝える。

たった1日。

そのたった1日が、自らを大きく揺るがす出逢いに繋がるとは、夢にも思っていなかった。




執筆 20110615

lhant = ラント

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