Metempsychosis
in Tales of Graces f
Wandering
サリーの墓前から旅立って、いったい何年、何百年が経っただろう。
相変わらず不老である多岐は、4〜6年単位で移住を繰り返し、その度に名前を変えるという放浪の日々を続けていた。
自分も随分と嘘が巧くなったと思い、苦笑したのも昔の話だ。
それだけ長く生きていれば、世界も変わるもので、世界はいつしかウィンドル・ストラタ・フェンデルの三つの大国で成り立っていた。
国の成り立ちに興味はなかったので、詳しく覚えてはいないのだが。
そうして現在、多岐はウィンドル王国の首都、バロニアの港に立っていた。
緑と風の豊かなそこは、首都と言うだけあって栄えている。
気温も暑すぎず寒すぎず、先日まで極暑地にいた多岐には程よい暖かさだった。
「さて、まずはお仕事を見つけましょうか」
多岐は誰にともなく呟いて、港を後にする。
手持ちのガルドが限られている今、住まう家も大事だが、生活の糧はもっと大事だ。
「住み込みの仕事があれば嬉しいのだけれど…」
またまた独り言を呟いて、市街地を見て回る。
首都は店も豊富で、求人募集も豊富だったが、体力皆無の多岐に合いそうな仕事はなかなか見つからない。
長旅の疲れもあるので、今日は次で最後にし、駄目なら明日また探そうと、一軒の酒場に足を向けた。
店の名前はバー・タクティクス。
質素でも豪奢でもないが、落ち着いた雰囲気の外観だ。
ぼんやりと店を眺めていた多岐は、ふとその傍に据えられた掲示板に気付いた。
店のメニューや価格などの張り紙の中には、求人の文字。
成人である事は勿論だが、料理と接客マナーが出来る事。
性別は不問で、経験者は優遇するとあった。
酒場の時給は割高が基本だが、記載された時給は1000ガルドとなかなかの高値だ。
見た目以上に高級なバーなのか、繁盛しているのだろう。
多岐は、迷う事なくバー・タクティクスのドアを叩いた。
執筆 20110614
wandering = [英]放浪
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