Metempsychosis
in Tales of Graces f
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朝、いつもの時間を過ぎても起きて来ないサリーをお越しに行けば、彼女は、ベッドで眠っていた。
永遠の眠りに、ついていた。
それから僅か2日後、多岐はサリーの墓前にいた。
膝を着き、手を合わせて祈るその傍らには、小さなトランク。
そう、多岐は今日、10年近い年月を過ごした村を去る。
「サリーさん、今まで、ありがとうございました」
たくさん、たくさん護って下さっていて…。
そう。
多岐は、サリーに護られていた。
10年間、ちっとも老いない多岐を気味が悪いと、早く追い出した方が良いと言う人々から。
人は、人々は、異端を嫌う。
大人は特に。
子供は大人が嫌うから。
そしてその負の感情は、サリーを喪った多岐へと直に突き刺さった。
精神的に疲弊していた多岐が、その凶器に保つ訳もなかった。
そうして今日、追い出される様に多岐は村を出る。
でも、その前に、サリーに逢って行きたかった。
「…あまり…荷物を持って行けそうにありません。身の回りの物、たくさん揃えて下さったのに…ごめんなさい」
小さなトランクには、何組かの衣類と、櫛などの身支度用品…本当に必要最低限の物しか入っていなかった。
小さな子供でも持てるその手荷物すら、体力のない多岐が長距離を旅するのに持っていける限界だから。
「でも、これだけは、頂いていきますね」
そう言って、多岐は膝に乗せていた小さな絵を撫でた。
何年か前、サリーが絵師に頼んで描いて貰った、小さな小さな、サリーと多岐の姿絵。
お金に余裕などなくて、とても小さな物しか頼めなかったが、それでも十分だった。
「……サリーさん」
立ち上がり、小さなトランクを持つ。
きっと、最後になる。
そう思う。
この村に、多岐が戻る事は、二度とないと。
それでも、多岐がサリーに贈る言葉は、一つしかなくて。
「………行ってきます、お母さん」
言って、背を向けて歩き出した多岐は、
ーーーーーーーー…行ってらっしゃい、私の大事な愛娘…ーーーーーーーー
そう言って笑う、サリーの声が聞こえた気が、した…ーーーーーーーー。
執筆 20110614
vertreiben = [独]追放する
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