Metempsychosis
in Tales of Graces f

Ungeschickt

ラントに戻ると、アスベル達は2人を無事救出出来た事を報告すべく、領主邸へと向かった。
もちろん当事者であるフィエラも共に。

そうして戻った領主邸の一室には、ぐったりとベッドに横たわるレイモンと、細いシルバーフレームの眼鏡が知的な印象を受ける、すっきりとした短髪のストラタ軍人の青年がいた。

「シェリア!無事で良かった…。今回の件は、全て僕の管理不行き届きが原因です。申し訳ありませんでした」
「過ぎた事はもういいわ。それより…」

既知なのだろう。
親しい言葉遣いながらも深く頭を下げる青年に、シェリアはゆるく頭を振ると、怪我をしたレイモンに近づく。

「酷い傷……」
「追い詰められて、発作的に自らを刺してしまったんです。何て浅はかな真似を……」
「もう大丈夫ですよ。今治療しますからね」
「貴女は…」

レイモンの治癒を始めたシェリアを見送って、フィエラに向き直った青年は、やはり深く頭を下げる。

「申し遅れましたが、私はヒューバート=オズウェルです。貴女にも、部下がご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」
「あら、私も気にしていません。私の間が悪かったのも事実ですから」
「間が悪かったって…」

端でアスベルが苦笑いするが、青年はありがとうございます、と再び頭を下げた。

「聞き及んでいるとは思いますが、貴女にはストラタの監視下に入って頂く事になります」
「はい。アスベル君から説明は聞いています」
「そうですか。不自由を強いる事も多いと思いますが」
「それがあなた方のお仕事だと言う事は理解してます。私も必要な要望等は遠慮なく言うつもりですので、気になさらないで下さいね」
「……はい」

彼に言ってもどうにもならない事があるのは当然。
それを愚痴愚痴文句を言った所で何も変わらないのだから、と笑顔で受け入れるフィエラは寛容で、大人だった。
その有り難い対応に、ヒューバートは、ほっとしたような、苛立っているような、色々な感情が綯い交ぜになったような変な顔をする。
アスベル達がそんな彼に首を傾げた時、シェリアがレイモンの治療を終えて、ふぅっと溜め息を吐いた。
その後、自らを害した自分を癒やしてくれたシェリアにレイモンが惚れるという(一部全く気づいていない)事もあったが、とりあえずは一件落着となる。

「では、俺達は予定通り、親書を届けにストラタへ行こう。…シェリアもついて来てくれるか?」
「あ、うん。もちろん!」
「よ〜し。それじゃ、しゅっぱ―つ!」
「あ、ちょっと待って下さい」

元気良く言ったパスカルの、「ほいほ〜い」みたいな感じの動きをソフィが真似るのを、フィエラはとっても微笑ましく見る。
暢気な3人を余所に、ヒューバートはアスベルに歩み寄り、何かを手渡した。

「広場で渡そうと思ったんですが、あんな騒ぎになっていて、渡せなくて…」
「ん…?なんだ、この袋は?」

アスベルの手中には、小さな袋がちょこんと乗っている。
それは所々にほつれもあって、少々くたびれた印象だった。
首を傾げるアスベルに、またしても変な顔をするヒューバート。

「…別に、大した物じゃありません。ただの……お守りです。さぁさぁ、行くなら早く行って下さい!」
「ああ。行ってくるよ、ヒューバート」

ぎこちなく視線を背けて言うヒューバートは、どう見ても照れているのだけれど、追い出すように急かされても普通に答えるアスベル。
そんな仲良し兄弟も微笑ましく見ていたフィエラは、アスベルの真っ直ぐさは美徳だけれど、ちょっと妙ににぶいみたいねぇ、とのんびり思っていて。

皆が部屋を出て、ドアが閉まる。
その僅かな間に、

「……気をつけて」

小さく呟かれた声を聞いて、フィエラが内心で彼を、

『ヒューバート君 = ちょっと照れ屋さんだけれど、とても優しい子』

なんて位置付けていたなどと、誰も知る由もなかった。




執筆 20110618

ungeschickt = [独]不器用な

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