Metempsychosis
in Tales of Graces f
Reazione
「…………え?」
きょとりと瞬いたフィエラに、アスベルが申し訳なさそうに眉を下げた。
「私も、ストラタに?」
「はい…」
「あら………」
ラントに向かって歩き出して早々言われた事を復唱して、フィエラは僅かに眉根を寄せる。
そんなフィエラの反応を嫌がっているからだと思ったのか、アスベルが更に眉を下げた。
そのアスベルが言うに、
今のフィエラは、リチャード国王に狙われた身である上にその理由も定かではないので、野放しには出来ない。
保護も兼ねてストラタ軍の監視下に置き、向こうの動きを見る必要がある。
↓
しかし、現在ラントに駐留しているストラタ軍は、先の侵攻の痛手が未だ残っており、フィエラの護衛に割ける人員がない。
↓
以上の事から、ストラタの大統領府に警護を要請する書状と共にフィエラの身柄を引き渡すよう、ラントに駐留するストラタ軍の総督(アスベルの実弟だという)に頼まれた。
という事だった。
その理由には、フィエラ自身納得出来るし、拒否権が無い事も重々承知している。
だが、しかし…。
「大統領府、と言うことは、もちろん首都へ向かうのよね…?」
「え?ええ、そうですが…」
「そう……」
「……何か行きたくない理由でもあるのか?」
あまりに渋るので訝しんだマリクが訊くと、フィエラはへにゃりと眉尻を垂らした。
「私………」
「私?」
「………………体力皆無なんです」
「ほう?」
「砂漠を歩いたら、多分一時間も保たないと思うんです。今も、ラントに辿り着ける自信がなくて…」
「へ〜、そうなんだ〜」
「「「………………」」」
あっけらかんとしたパスカルとソフィはともかく、掛ける言葉もないアスベル達をよそに、フィエラは困ったわねぇ、とのほほんと笑う。
因みに、2人が捕まっていた場所からラントまで、確かに距離的には2・3時間は歩くが、起伏が激しい訳でもない。
如何に体力がないとは言っても、流石にラントまでは大丈夫だろう。
そう思っていたアスベル達は、救出場所とラントの中間辺りで本当に力尽きたフィエラに、それを信じざるを得なくなった。
というか、体力が無いにも程があるだろうと思う。
体が弱く、病気がちだった子供の時のシェリア並みの体力の無さである。
「持病でもあるのか?」
「いいえ…昔から…風邪、一つ…ひいた…事、は…ないのだ、けれど…」
息も絶え絶えに言うフィエラは、マリクに支えられてやっと立っている状態だった。
フィエラ自身、風邪一つひいた事がないのは凄いと思うが、不思議だとも思う。
体力もなければ自然と免疫も衰えやすく、大病ならともかく、小さな病気の1つや2つ、かかっていても当然と言える筈なのに。
「少し休憩しましょう、アスベル」
「ああ、そうだな」
「…ごめん、なさい…」
「…………いや」
提案したシェリアにアスベルが休憩出来そうな場所を探して辺りを見回すのに、フィエラは眉を下げて謝るしかない。
そんな中、暫し考えを巡らせていたらしいマリクが頭を振った。
「今は先を急ぐのだから、休憩せずに進んだ方がいい」
「教官、しかし…」
「フィエラさんがこれ以上歩くのは無理です。少しでも休んで、…!!!」
「!!!」
「……あら?」
あくまで休憩すべきと言う2人に皆まで言わせず、マリクはぐったりとしているフィエラをひょいっと抱き上げる。
もちろん妙齢の女性を子供にするように片腕に乗っけるなんて出来る筈もなく、所謂『横抱き』『姫抱き』『お姫様だっこ』『プリンセスホールド』などと呼ばれる形になる訳で。
当人は未だ状況を理解出来ていない中、周りは各々なかなかに個性的な反応を見せた。
赤面するアスベル、首を傾げるソフィ、ひゅ〜ひゅ〜と囃し立てるパスカル、シェリアに至ってはキラッキラした瞳でうっとりと2人を見ていて、妙に嬉しそうである。
そして、漸く状況を理解したフィエラにマリクは、
「こうするしかあるまい。もちろん次からは体力が尽きる前に。…フィエラは嫌かも知れないが」
「いいえ…、寧ろ…ご迷惑を…」
「こればかりは仕方がないのだから、気にする必要はない」
「はい…。ありがとう、ございます…」
態度に色めいた様子もなく、極普通に説明し、納得する。
周りの反応なんて知ったこっちゃなかった。
アスベルは赤面したまま言葉もないというのに、である。
そして他の面々はと言えば、
「……………ステキ…v」
「シェリア?」
ほぅっとやけに艶めいた吐息混じりに言うシェリアにソフィが首を傾げていた。
その表情から、何かをぽわわわん♪と想像しているらしい。
「ね〜ね〜。決まったならさっさと行こうよ」
パスカルは手をぶらぶらさせながら言う。
囃し立てるのに飽きたのだろう。
本当に、各々が、個性的…過ぎる反応を示したのだった。
執筆 20110618
reazione = [伊]反応
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