Metempsychosis
in Tales of Graces f

Frotter...side Cheria

連れて行かれたのは、どこかも分からない小屋だった。
流石に麻袋からは出されたが、タイミング悪く現れた女性と共に、縛られたまま床に転がされる。

兵士達が出て行くと、シェリアは何とか自力で身を起こして女性を見た。
自分に背を向けて転がる彼女は、昨日倒れた、確かフィエラと呼ばれていた女性だ。

「大丈夫ですか?」
「……………」
「フィエラさん?」
「……………」

声を掛けても反応がない。
シェリアはザッと青醒めた。
広場でアスベルから目を覚ましたと聞いていたが、もしかしたら、また具合を悪くして倒れているのかも知れない!と思って。
様子を見たくても、後ろ手に縛られていては身動きもまともにとれなくて。

ぎち、ぎちと、シェリアは両手を縛るロープを解こうと試みる。
既に手首の皮膚が裂けているのだろう。
動かす度に痛いが、シェリアは手を止めなかった。
そうして続ける事1時間程。

「解けた!」

パラッと呆気ない程に解けたロープにも目を向けず、両足のロープも急いで解くと、シェリアはフィエラに駆け寄った。
呼吸は、ある。

「フィエラさん、フィエラさん!」

慌てて揺さぶると、フィエラは僅かに眉を寄せる。
反応があった事にホッと胸を撫で下ろした。

でも、いつまでも此処に閉じ込められていては、事態がどうなるか分からない。
アスベル、達、の事もあるので、可能な限り早く此処から逃げ出さなくてはとシェリアは思った。
これが自分1人であったならば、すぐさま動き出していただろうが、実際はフィエラ(しかも意識がない)がいる。

シェリアは焦る自分を抑えて、とりあえずフィエラを縛るロープを解き、自分達の入れられていた麻袋を枕代わりに頭の下に敷いた。
ヒリヒリと痛む手首に、怪我をしていた事を思い出し、突然目覚めた治癒の力で癒やしておく。

それから暫く。

「あら?」
「…良かった…!」

意識の戻ったフィエラに、シェリアは言うまでもなく安堵する。

「どこか痛む所はありませんか?具合は?」
「あら、大丈夫ですよ」
「良かった…」

体調も悪くないと分かってホッとしたのも束の間、次いで込み上げたのは、巻き込んでしまった罪悪感で、シェリアはぐっと眉尻を下げた。

「ごめんなさい。巻き込んでしまって…」
「あら。あれは私も悪かったんですもの。貴女が気に病む必要はありませんよ」
「でも…」
「でもじゃありません」

気にしないでと言われても、シェリアの気は納まらない。
しかし、尚も謝ろうとしたシェリアに、フィエラはピシャリと言って。
びっくりしたシェリアが見たのは、ちっとも怖くない顔でメッ!をするフィエラだった。

「…はい」

優しい人だと思った。
お母さんみたいな、あたたかい人。
まだ名前しか知らないのに、不思議と安心出来る人。
と、

「!!」

なでなでと、フィエラに頭を撫でられた。
いい子いい子なんてされる年齢じゃないのに、抵抗も忘れて撫でられているシェリア。
その手付きもやっぱり優しくて暖かで、心地良い。

……………………………、

「…って!」
「て?」
「そうだわ!アスベル達が…!」

フィエラが起きたのであれば、早く此処から逃げ出さなくてはいけなかったのだと思い出す。

なでなでされてほんわかしている場合ではなかった。




執筆 20110616

frotter = [仏]撫でる

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