Metempsychosis
in Tales of Graces f

Secuestrar

結局ソフィに関しては手掛かりを得られず、逆にフィエラという面倒事を得て、話は終わった。

アスベル達はゆっくり休んでくれと言って退室して行ったが、暫くほやーっと窓の外を眺めてから、あら?とフィエラは首を傾げる。
自分はここにいなければならないのだろうか?と、遅すぎる疑問を思っていると、ドアがノックされた。

「どうぞ」
「失礼」

入ってきたのは、細いゴールドフレームの眼鏡と鋭い目つきが印象的なストラタ軍の男性。
男性は窓辺に立つフィエラを見ると、簡潔に要件を告げた。

「先の侵攻時の事で、貴女の尋問を任されました。レイモンです」
「あら、初めまして」

レイモンはにこやかに笑ったフィエラに、面倒臭そうに嘆息すると、持っていた書類を見て言う。

「では、始めます」
「はい」
「名前は?」
「フィエラです」
「出身」
「分かりません」
「…分からない?」
「はい。生まれてから暫くの記憶がないものですから」
「…まぁいいでしょう。聞くところによると、貴女はバロニアのバーで働いていたとか。何故ラントに?」
「穏やかな気風と聞いたので、お仕事が見つかれば、のんびり暮らしてみようかと思ったからです」
「リチャード国王と面識は」
「ありません」

レイモンの尋問にフィエラが答える。
そんなやり取りを淡々と繰り返す事暫し。

訊くべき事を聞き終えたのか、レイモンは書類を整えて持つと、すぐに席を立つ。

「尋問は以上です。今後について連絡があるまで、この邸から出ないように」
「あら、でも」
「では、失礼」

フィエラに皆まで言わせず、バタンと大きな音を立てて部屋を出て行ったレイモンに、きょとんと瞬く。
最初から最後まで、随分と面倒臭そうに、そして不機嫌だったのだから、疑問に思うのも当然だった。

『こんな仕事、その辺の奴にだって出来るじゃないか。何でこの俺がこんな雑用を…!』
「あらあら」

ドアの向こうからそんな声が聞こえて、すぐに納得したのだが。



それから暫くして運ばれて来た昼食を頂き、食後のお茶を飲んでいたフィエラは、宿屋に置いたままになっている荷物を取りに行くにはどうしたら良いかを考えていた。
宿代も払わなければいけないし、一旦でも帰りたい。
とりあえず、邸内にいるだろうストラタ兵に希望を伝えてみようとドアを開け、

「いやっ…離して…!」
「あら」

レイモンと数人のストラタ兵士が1人の少女に無体を働こうとする現場をバッチリと目撃してしまった。
更には声まで出してしまえば、当然向こうにも気づかれる訳であって。

「この女を、誰にも見られないように街の外に連れ出し、監禁しておけ。そっちの女もだ」
「はっ」
「止めて!彼女は関係ないでしょう!」

少女はフィエラを庇おうしたが、こんな現場を見られたレイモン達が聞く耳を持つ訳もない。

「こっちに来い!」
「あらあら?」
「離して!」

数人の兵士に掛かっては何の抵抗も出来ず、あれよあれよと言う間に両手両足を縛られ、口もしっかり塞がれて。

そして、一体どこから持ってきたのか、兵士の手には大きな麻袋が2つ。
使用法は、聞くまでもないだろう。

「んう―!」
「静かにしろ!移動中に騒いでみろ。その場で殺す」
「っ!」

先に麻袋に入れられた少女が、最後の抵抗でくぐもった叫びを上げると、レイモンがニヤリと笑いながら言う。
自身も麻袋に入れられながら、フィエラは困ったわ、と思って溜め息を吐いた。




執筆 20110616

secuestrar = [西]拉致する

- 16 -
Prev | Next

Back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -