Metempsychosis
in Tales of Graces f
Dilemma...side Sheria
シェリアはパタンと小さな音を立ててドアを閉じた。
領主邸の前で倒れたという女性を邸内の一室に運んだのが先程。
シェリアは部屋から男性陣を追い出し、女性の様子を看つつ、その身支度を整えていた。
身支度が一通り終わった事を知らせようと部屋を出ると、領主邸に相応しい広いエントランスの片隅に、アスベル達が集まっているのに気づく。
…その中に一つ下の幼なじみ、ヒューバートの姿がない事を寂しく思うのは、シェリア自身、我が儘なのだろうと思う。
向こうもシェリアに気づいたようで、真剣な面持ちで近づいてきた。
「シェリア、フィエラさんの様子は?」
「まだ眠っているわ。でも、怪我もないし、気絶しただけだと思う」
「そうか」
明らかにホッとするアスベルに、シェリアの胸がチクリと痛む。
…って!違うわ!アスベルなんて、どうでもいいんだから!
「ん〜…」
シェリアが一人で質疑応答をしているなんて露知らず、パスカルーーー元気いっぱいな女性だ。ただ、その落ち着きの無さでシェリアより年上と聞いた時には驚愕したーーーが、珍しく難しい顔をして唸っていた。
「どうしたんだ?」
「いやぁ…あの人どっかで見た事があるような気がぁ…あ〜…」
「パスカル?」
ジタバタと落ち着きなく動いていたパスカルは、きょとんと首を傾げるソフィを見て、じわじわと目を剥くと、
「んあああああ!」
「「「「っ!!」」」」
突然雄叫びを上げた。
びくぅっと身を跳ねさせた一同に構わず、パスカルはキラキラと瞳を輝かせて言う。
「思い出したよ!あれだよ、あれ!」
「あれ?」
「ウォールブリッジの地下遺跡で見た、ソフィともう一人の幻!」
「ああ、あれか。でも、もう一人の幻は損傷が激しくて、ハッキリ見えなかっただろ?」
シェリアもアスベルから地下遺跡での幻の話は聞いていたが、こんな…ソフィが7年前の記憶を取り戻したタイミングで、もう一人の幻の本人が現れるなんて…そんな偶然があるものだろうかと思ってしまう。
「そうだけど、絶対そうだって!」
「根拠はあるのか?」
「ん―ん。ただの勘」
「「「…………」」」
断言したくせにマリクの問いにはケロッと勘であると曰うパスカルに、シェリア達はちょっと頭が痛くなった。
やれやれと溜め息を吐いた時、シェリアはソフィの様子がおかしい事に気づき、俯いた顔を覗き込む。
「ソフィ?具合でも悪いの?」
「…大丈夫」
「そう言えば、ソフィはさっきフィエラさんを見た時にも考え込んでいたな」
「何か思い出せそうなのか?」
「……わからない」
ソフィはそう言ってぎゅっと胸元を握り締めた。
本人はそう言うが、ソフィが何かしら感じているのも事実。
記憶の手掛かりになるかもしれないと思うのは当然で、シェリアがアスベルを見ると、アスベルもシェリアを見て静かに頷きを返す。
「フィエラさんが目を覚ましたら、一度会ってみた方がいいだろうな」
どうやら同じ意見なのだと分かり、少し嬉しくなった。
……って、だから!違うったら!
「…それじゃあ、私は救護の仕事に戻ります」
口早に告げて、シェリアは逃げるように領主邸を出た。
「…………っ」
てんで素直じゃない自分に嫌気がさす。
成長したアスベルを見て、内心はとても焦っていた。
でも、あまりに何も変わっていないアスベルを見て、苛立って、怒りになって、わざと余所余所しい態度をとった。
そうでもしないと、7年間の色々な気持ちが爆発してしまいそうで、
そうでもしないと、7年間の自分が馬鹿みたいで、
自分自身を保てなかったから。
でも、そんな自分が、シェリア自身、すごく嫌で堪らない。
「…………馬鹿っ」
それは誰に向けての言葉なのか、シェリアにも解らないまま、憎らしいくらいに晴れ渡った空に消えた。
執筆 20110615
dilemma = [独]ジレンマ
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