Metempsychosis
in Tales of Graces f

Dream

夢を見た。

良い子良い子と頭を撫でられ、

ぎこちなくも、嬉しそうに笑う、

可愛い可愛い、子供の夢を。

でも、何故だろうか。

子供の笑顔を見て、こんなにも哀しくなってしまうのは。

何故、なのだろう…ーーーーーーーーー。





目を覚まして見えたのは、全く見覚えのない高い天井。
そして、大きな窓から外を眺めるマリクの姿だった。

「…マリク、さん?」
「!、目が覚めたか。気分はどうだ?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「そうか」

心配するマリクに笑顔で返し、ゆっくりと身を起こす。

きょろきょろと部屋を見回せば、ここは最高級とまではいかないが見ただけで質の良い調度品で揃えられたと分かる一室。
少なくとも宿屋ではないだろうと、そんな事を思って、ふと、フィエラは首を傾げた。

何か、夢を…見たような気がしたのだけれど、と。
しかし、それがどんな夢だったのか、今は全く思い出せない。
思い出そうとすると、思考が靄に覆われたようになってしまうのだ。

とても、大切な事だと思うのに…。

「どうした?」
「あ、いいえ。何でもありません。ところで、ここは…?」
「ラント領主邸だ」

誤魔化すように訊けば、ベッドの傍に置かれた椅子に座りながらマリクが教えてくれた。
何故そんな所にいるのかと首を傾げるフィエラに、今度はマリクが訊く。

「訊きたい事はお互いあるだろうが、とりあえず先に確認させてくれ。どこまで覚えている?」

少なからず知るフィエラの当時の様子を間近で見ている分、マリクは真剣だった。
本人に自覚がなくとも、あの時のフィエラの様子は、誰がどう見ても普通ではなかったのだから。

「そうですねぇ…金髪の青年と目があったまで、でしょうか?」
「面識はあるのか?」
「いいえ、初めましての筈…なんですけれど…」

そう。
長く生きてきた中で、彼と会った事は一度もない筈だ。
彼が自分と同様に不老であると言うならば話は違うのだけれど。

なのに、何故だろうか…。

「…懐かしい…ような…」
「懐かしい?」
「……気のせいとは…思えなくて…」
「……そうか」

その答えを聞いたマリクの目が僅かに眇められた事に、フィエラが気づく事もなく。

本人も解らないのにこれ以上訊いても仕方がないと判断したのか、マリクはフィエラが気絶してからの事を説明してくれた。

「その金髪の青年というのは、ウィンドルのリチャード陛下だ」
「まぁ…」
「どうにも向こうには心当たりがあるのか、丁重な扱いで連れてくるよう騎士団に指示を出していたな」
「私を、ですか?」
「ああ。因みに、フィエラが倒れてから半日が経っている」

当然、今現在ラント領主邸にいると言われたからにはマリク達がそれを阻止したのだろうけれど、何故そのような事を指示してまで連れて行こうとしたのか、やはりフィエラにはさっぱりだ。

と言うか、王家の人間であるならば、彼と出逢った確率はゼロになったと言えよう。
不老であるならば、あるいは…とも少し思ったが、一般人のフィエラのように放浪も易々と出来ない筈なので、誤魔化すのは難しい。
巷にそのような噂は流れていなかったのだから、彼は『普通』の人なのだろう。

さて、さっぱりと言えば、さっぱりな疑問がもう1つ。

「でも、何故領主邸に?」
「倒れたのが領主邸の前だったからというのが一番の理由だが…アスベルを覚えているか?」
「はい。一度だけ会った真っ直ぐな子ですよね?」
「子…まぁいいか。此処はそのアスベルの実家だ」

因みにアスベルは領主になったと言われ、フィエラは少し驚いたが、「あらあら。立派になったんですねぇ」と暢気に笑って終わった。

「俺からの説明はこんな所だな。他に質問がないようなら、今度はそっちの番だ」
「あら。説明、と言われても、困ってしまうのですけれど…」

少しの間、うーん…と悩んだフィエラだったが、思いついた!とばかりにぽんっと手を打つと、にっこり笑って言った。

「安住の地を求めて津々浦々を旅してみようかと思って」




執筆 20110615

dream = [英]夢

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