Metempsychosis
in Tales of Graces f

Treffen...side Malik

「安住の地を求めて津々浦々を旅してみようかと思って」

にっこりふんわり曰ったフィエラに、マリクは微かな違和感を感じた。
アスベル達であれば、あっさり納得するなり呆気に取られるなりで反応しただろうが。

「ほう?」
「ラントは穏やかな気風と聞いたので、私に合うお仕事があればと思っていたのですけれど、残念ながら見つからなくて。近々別の街へ発とうと思って、準備をしていて…」
「この騒ぎに至った、か?」

にっこりと笑顔で頷いたフィエラに嘘を吐いている様子はないが、マリクの中でやはり違和感は残って、

(…ああ、そうか)

気づけば簡単な事だった。

フィエラは嘘を吐いていない。
嘘を吐いていないのだから、その態度に不自然な様子は表れず、他者に疑惑を持たれにくい。
しかし、総てを話した訳でもない。
フィエラは総てをざっくり過ぎる位にざっくり割愛する事で、肝心な部分を巧みに隠して見せたのだ。

果たして、そこまで考えた上での発言なのか否か。
…いや、これは天然でも計算でもかなり質が悪いか。

と、マリクはそれ以上考えるのを止めた。
言わないのは言いたくないから…。
ならば、それ以上の詮索はすべきじゃない。
勿論、その秘密が解決へと繋がる糸口になる可能性を知りつつも、マリクはただ、そうか、と頷くだけに留めた。

と、タイミング良くドアがノックされ、フィエラが了承するのを確認してマリクがドアを開けると、そこにはアスベルと、彼の後ろからひょこっと顔を出すソフィがいた。

「教官、フィエラさんは…」
「ついさっき目を覚ました。体調も問題ないようだ」
「そうですか。良かった…」

マリクは入口から退いて2人に入室を促すと、静かにドアを閉めた。

「あら、アスベル君」
「お久しぶりです。突然来てしまって、申し訳ありません」
「あら、構いませんよ。私の方こそ、ごめんなさいね」
「いえ、そんな。…あの…実は、フィエラさんに会って頂きたい子がいて…この子なんですが…ソフィ」

フィエラの身分が高い訳でもないのに、馬鹿っ丁寧な態度は如何にもアスベルらしい。
アスベルが言うのは、昨日エントランスで話していた事だろうと思い、記憶をなくした少女を見る。

「…ソフィ?」
「………………っ」

アスベルもマリクも、その時になって漸くフィエラをじっと見つめるソフィに気づいた。
常から感情の起伏が顔に出る事の少ない少女だが、その表情は僅かに強張ったように見える。

「ソフィ?」

アスベルが心配して優しく呼ぶと、ソフィは俯いて頭を振った。

「……わからない…、でも…」

ぎゅっと胸元で手を握り締めるソフィは、ポツリと小さな声で言う。

「……ここが…ぎゅって、痛くなるの…」

それが身体的な痛みでない事は、言われずとも分かった。
ソフィはこの反応だったが、フィエラはどうかと目を向けて、マリクは息を飲んだ。

「…………っ」
「フィエラ!?」

元々色白だった顔色は青醒め、自分を守るように抱き締めた身体は、カタカタと震えている。

その様が表しているのは、紛れもない、

ーーーーーーーー…怯え、そのものだった。




執筆 20110615

treffen = [独]出会う

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