ノスタルジア





 表向きは、ただの研究施設にしか見えないようなアタシたちの組織の近くに小さな遊園地がある。

 ソコは本当に小さくて、マトモに遊べそうなのも観覧車くらいしかなくって、いつ取り壊されてもおかしくナイほどで。

 もう誰も遊んでくれなくなった観覧車が遊園地ごとなくなるコトを、組織のエラいオジサンたちの噂話で知った。



 今日から組織の生体兵器です、組織の為に頑張って下さい。

 何の見返りも全然ナシにすごいチカラがもらえるとか、ふかふかのイスにふんぞり返ってヒトをアゴで使えるとかムシが良すぎるオイシイ話が転がってるって、無邪気に信じられるほどコドモだったワケじゃナイけど。

 いきなりそんなコト言われたって、おとなしくハイそうですか頑張りますなんて素直に納得できるほどのオトナでもなかったアタシとK9999は、ある日こっそり組織から逃げ出した。

 ノリで逃げたのはいいけど2人とも身を潜める場所のアテなんかもちろんあるワケがないし、これからどうしようかって迷ったアタシたちの目に映ったモノ。

 それがあの観覧車だった。
 

 アタシたちはポケットの中、ちょっとだけ持ってたコインで買ったチケットを持って観覧車に乗り込む。

 理由は何だろ?

 パパとママと手をつないで無邪気に笑ってた、まだ幸せだったコドモの頃の遠い記憶のせい?

 予想に反して文句も言わずに一緒に乗るK9999にもそんな時代があったのかも、とか思うとちょっと楽しくなった。アタシは睨まれても知らんぷりして窓の外を眺める。

 でもね。

 アタシたち2人だけを乗せて少しずつ上がってく観覧車の中で、思ったんだ。

 まるでアタシたちみたいだなあって。

 ヒトとは違うチカラを持ってるアタシたちは、観覧車と同じ。

 高い場所から、アリみたいに小さなヒトたちやオモチャみたいなビルを見下ろして優越感に浸ってる。

 ……だけど。

 そんな感覚は短い間だけで、すぐに慣れちゃうヒトはもっと高い場所に行きたがる。向上心って言ったら少しは聞こえがいいのかもしれないけれど、現実は残酷すぎるから。次に作られる観覧車は今あるものより大きなものじゃないと人の興味を引くコトはできなくて、そうして新しく大きな観覧車ができると、古い観覧車は見向きもされなくなっていくの。

 組織が思うような結果を残せなきゃ失敗作扱いされるアタシたちと、イヤになるくらいよく似てる。

 K9999も……アタシがそう思うより早くに同じコトを思ってたんじゃないかなって、後で振り返った時、そんな気がした。


 観覧車に乗って、オナカが空いたからハンバーガーとジュースを買う。それだけのコトでもあっという間にお金は尽きて、このまま外でお金を稼いで生きて行こうって考えも持てなかったアタシたちの反抗はその日のうちに終わらせなきゃいけなくなった。

 アタシたちはモノでしかナイ観覧車だから。

 居場所は遊園地みたいに楽しいトコロじゃナイけれど、そこでメンテナンスを受けなきゃすぐにサビついて動けなくなってしまう。壊れた観覧車には役割は与えられなくって、後は誰からも忘れられていくだけ。

 結局、家出にもならないちょっとしたお出掛けで終わったコトとは言え、それでも組織のオジサンたちはアタシとK9999が抱える反抗心をしっかりと見抜いてた。

 2人揃って何時間もお説教されて、バツとしてKOFとかいう大会に参加しろだって。

 ……アタシもK9999も、バカだよね。

 痛い思いをするからバツになるんだってコト、あの時は全然考えもしなかったんだから。



 壊されてしまう観覧車。

 壊れてしまったK9999。

 そんな現実なんかなかったように、また組織は新しく観覧車を作った。

 ううん、違うかな。

 アタシのココロには今も、ハンバーガーのケチャップを口の端につけたのをアタシに笑われて不機嫌になるK9999のカオが残ってるし、新しい観覧車にされたコ……ネームレス君の左腕は、炎を抑える為のグローブがはめられてる。

 K9999がいたから色褪せないで、ずっと残ってるんだ。

 そうして大事な思い出を抱えたアタシは、大事な思い出をくれたK9999が戻ってくる日までずっとずっと生きていくの。

END


裏話的なことを書きますと、この話を思いついたのは自転車で走ってる時に観覧車が見えていたのがきっかけでした。

こんなとこにも観覧車があるんだなあ→そういえば観覧車って何気にあちこちにあるかも→でも話題になるのって新しく作られた大きいものだけだなあ…みたいな。

あんまり後味がいい話ではないかもですが、01〜02UMにかけてのアンヘル捏造話な感じで受け止めていただければ嬉しいです。


20100710 UP






 

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 NOVEL / KQ 



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