日なたの窓に憧れて





「何だかなーっ、何だかなーっ」

 だあれもいない自分の部屋のど真ん中、アタシは一人でごろごろと床を転げ回った。

 最近ずっと雨が続いてて、エアコンが効いた部屋は快適ではあるんだけど、なーんか気分的にジメジメする。

 いつもニコニコ、ストレス知らずで抗菌・抗カビ対策もバッチリ!な天下無敵のスーパーボディのアタシだって、毎日こんなカンジじゃアタマからキノコが生えてきちゃいそう。アタマのキノコを食べなきゃいけないほど食生活には困ってナイし、髪の毛だって湿気でぼわんぼわん爆発しちゃうし、雨降りの中お出掛けするのもイヤだし、たまにならいいけど雨が続くのってヤだなヤだな。

 ……それに。

「まだ監査なのかにゃあ」

 ぽつりと呟いて寝返り一つ。

 湿気に悩まされてるのは別にアタシの髪の毛だけじゃなくって、K9999の右腕の方がもっとセツジツな問題みたいだった。

 お決まりの傷跡が痛むパターンとか、炎が出ないとか、意識が分離してしっかりしないとか。他にもイロイロ、よくそんなに問題が起きるなあって感心しちゃうくらいにトラブルの連続で、監査がない日ってナイんじゃないかな?

 それってデリケートって言うか、ただのポンコツなんじゃナイのって思ったりもするけど、オトナなアタシはもちろん言わないワケで。

 K9999がいないと思ってたよりヒマだにゃー。やっぱり寂しい、な。

 どうしたらいいかな?

 お天気になったらいいのかな?

「むー……」

 唸りながら考える。

 雨乞いは聞いたコトあるけど、お天気にしたい時ってどうしたらいいんだろ?

 うーん。

 うーん……。

 オナカ痛い時の何倍も唸るうちにグッドアイデアが閃いた。それから勢いよく起き上がって部屋の中を家探しするコト数分。

 年頃のオンナノコの部屋とは思えナイ、ベッドとクローゼットだけの部屋にそんな都合よく欲しいモノは転がってなんかなくって、アタシはまた唸ってアタマをフル回転させる。

 正直言ってムサイ組織にオレンジや白い布にリボンがあるとも思えナイし、お買い物に行くしかナイかなあ?

 脱走禁止の為っぽい、明かり取り用の小さな窓から外を見ると雨はパラパラ降ってるカンジ。K9999の監査もどうせまだ時間かかるだろうし、出掛けちゃうなら今のうちかもしれない。

 そうと決めたらアタシは大急ぎで部屋を飛び出した。


 手芸屋さんとかに行くの、もしかして生まれて初めてのコトかも。お裁縫とか、全然したコトだってナイし。

 フツーのオンナノコは行ったりして、欲しい布を切ってもらったりとかしてるのかな?

 なんて思い返して、ぷるぷると首を振った。

 違うしっ!

 アタシだって、ジューブンにフツーのオンナノコだしっ!

「何やってんだよ」

「ひゃっ!?」

 部屋のドアを開けた途端いきなり声をかけられて、アタシは大事に抱えていた手芸屋さんの紙袋を落っことしそうになった。慌てて持ち替えながら声のした方を見ると、ベッドの上でK9999があぐらをかいて座ってる。

「あれれ、もう監査終わったんだ」

「じゃなかったらこんなとこにいるかよ」

「どうせアタシの部屋はこんなとこですよーだ」

 一応は自分の部屋な場所をK9999に「こんなとこ」呼ばわりされてムカつく、けど。

 まさか帰ってきたらいるなんて思ってなかったから、ちょっと……かなり嬉しいかも。その証拠にほっぺたが緩んできちゃうよ。

 落ちつけ、落ちつけ。

 すーはーと大きく深呼吸すると、アタシは床に座って買ってきたばかりの紙袋の中身を全部出して目の前に広げた。

 まずはオレンジの布の真ん中に綿を乗せて、それから綿を包むように周りの布を集めてキュッと捻る。

 うーん、綿が少なかったかも?

 何かバランスがヘンな気がするなあ。

 きっと目の前にいるモデルのおミソが少ないせい……じゃなくって、アタマが小さいせい、かな。うん、きっとそうだ。

 お天気祈願にてるてる坊主を作ってるアタシを見下ろすK9999は、そうと気がついたみたいに鼻で笑った。

「ガキくせえ」

「いいのー」

 そんなのオコサマなK9999に言われなくても分かってるもん。

 アタシはべーっと舌を出して、今度はいいカンジに綿の詰まった首のトコロをリボンで結ぶ。それから黒い油性マジックでカオをカキカキ。ちらりとK9999を見ると全然興味なさそうに寝っ転がって、そっぽを向いた。あー、これは放っておいたらそのまま寝ちゃうパターンかにゃ?

 でも監査で疲れてるだろうし寝る子は育つって言うし何よりも超不機嫌っぽいし、ここはアタシのベッドだけど寝かせてあげるコトにしよう。アタシ、オトナですから。

 もう一個のてるてる坊主も同じように作って、首の後ろにぶら下げる用のリボンをつけるとアタマの重さで前にだらーんってなった。だけど仕方ナイから気にしない。あとはカーテンレールに結んで完成でーす。

 窓の内側で仲良く寄り添う、アンヘル様お手製の2つのてるてる坊主。

 オレンジ色の、への字口でしかめっ面をしてる方がK9999で、ニコニコ笑顔の真っ白いのがアタシ。

 そう言ったらK9999、てるてる坊主と同じカオで怒るかなあ?

 怒りそうだなあって反応を想像しながら、アタシはブランケットを持ってK9999の隣に寝そべった。

 一緒にブランケットにくるまるついでにそのカオをのぞきこむと、やっぱりもう寝ちゃってるみたいで静かな寝息が聞こえてきた。

 寝てる時は天使みたいなのにねー、なんて思ったら何かおかしくなってクスクス笑う。そうしたら耳元にかかるアタシの息がくすぐったいのか、K9999は寝たままムニャムニャ。

 ホンット、寝てるとおとなしくって可愛いのにな。……そりゃあ、おとなしくナイK9999にだって可愛いトコはいっぱいあるんだけど。たとえばすぐムキになるトコとか、すぐムキになるトコとか、すぐムキになるトコとか。

「明日、晴れるといいね」

「んー……」

 タブン寝言なんだろうけどアタシはそれを都合よく返事だと解釈して、このまま一緒に朝まで寝ちゃうコトにして目を閉じた。

END



500ヒットを踏まれた菱木様のリクエストであるアン9文章をお送り致しました。

菱木様にとって初めての記念すべきキリ番ということで、それはもうプレッシャーもかなりありましたが、今の自分に書けるものを9999%の全力で!ということくらいしか私にはやれないのでこのような形になったというわけです。季節柄、てるてる坊主の出てくる話にしようというのはすぐに決まりましたしね。

改めまして、菱木様、キリ番のご報告とリクエスト本当にありがとうございました!!9%でもお気に召していただけましたら嬉しいです。


20100618 UP






 

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