〜 05 〜
「なにそんなにニヤニヤしてるの、フィアナ…」
「ん〜?うへへ〜」
友人たちとの昼休みの時間。
弁当をつつきながら、フィアナは友人に指摘された締まりのない顔を正そうとはせずに「王子がお菓子食べてくれたって〜」と言った。昨晩の出来事は内緒にしようと思い、口外はしなかった。
「やったじゃん!王子に直接聞いたの?」
「え、い、いや…」
「プロンプトくんかあ」と友人はどこか残念そうに言う。なんとなく本当のことが言いづらくてはぐらかしてしまったが、幸いにもその会話はここで終わった。
口が軽いのを自覚しているフィアナはそのあと、黙々とお弁当を食べた。
その日の放課後。
またあの川沿いにいたらノクティス王子が現れたりしないかなーと、淡い期待を胸にフィアナは一度帰宅してから制服のまま家を出た。
日が落ちて、建物に明かりが灯っていく。フィアナはその場に座って膝を抱えた。
今日は風が吹いていないが、その代わりに川のせせらぎがよく聞こえて癒しの空間であることには変わりはなかった。
遠くから足音が聞こえて、フィアナは顔を上げた。待っていた人がそこに…。
「お嬢さん、女子高生?かわいい〜!今ひとり?」
「……」
…いなかった。代わりにタバコをふかしながら土手を降りてくるガラの悪い男達が目に映った。
ナンパか…、と冷静に判断してその場から立ち上がり踵を返す。
「待ってよ。暇なら俺らと遊ぼうぜ」
咄嗟に腕を掴まれ足を止めざるを得なくなったフィアナはため息をついて振り返った。
そこには今腕を掴んでいる男の連れと思われる人たちが3人ほどこちらを見ていて、フィアナは更に深いため息をつく。
「暇じゃないです」
「ちょっとだけでもいいからさあ」
そう言った男の手が伸びてきて、フィアナの太ももを触った。目的は最初から明らかだった。鳥肌が立つのと同時にフィアナは掴まれた腕を捻って引き、バランスを崩した男の首に向かって手刀を下ろした。男は短く悲鳴を上げて力なくその場に倒れる。
「暇じゃないって言ってるでしょ!そういうのが目的ならこんなとこで学生引っ掛けてないで彼女でも作ったらどう!?」
「このガキ…」
「おい待て!」
頭に血が昇った連れの一人が、仲間の言葉を聞かずにフィアナに向かって拳を振るい上げる。フィアナはそれを軽々と避けて、その男のみぞおちに向かって肘を突き出して体当たりをした。
男は苦しそうに咳き込みながら地面にうずくまる。
「お嬢さん、なかなかやるんだねえ」
「なっ…!」
知らぬ間に後ろに回り込んでいた男に羽交い締めにされて身動きが取れなくなる。そのままずるずると、人目のつかない橋の下まで抵抗虚しく連行されていった。
なんとか抜け出そうと暴れていると、目の前にいたもうひとりの男が手のひらをフィアナの顔面に向かって振り下ろした。
頬に痺れるような痛みと、唇が切れたのか口内に血の味が広がる。
痛みに気を引かれてじたばたさせていた足を止めてしまう。目の前にいる男が近寄って来てフィアナの制服のボタンを外し始めた。
「やめて!んぐっ!?」
羽交い締めにしていた男がハンカチでフィアナの口元を抑えた。
変な匂いがする、とフィアナの嫌な予感が的中したのかすぐに視界がぼやけ始めて咄嗟に息を止める。
(誰か…!誰か助けて!)
フィアナは一縷の望みに懸けたい気持ちを、心の中で叫んだ。その刹那。
「うわっ!!」
目の前でフィアナの制服のボタンを外してた男が、なにかの影と一緒に突然横に吹っ飛んだ。
何事か、と男が吹っ飛んだ方向を見ると、見覚えのあるシルエットが視界に入った。
「なんだテメェ!?」
咄嗟の出来事に判断が追いつかなかったのか、羽交い締めにしていた男の力が微かに緩んだのをフィアナは見逃さなかった。拘束から逃れるたフィアナは、その男の脇腹に向かって回し蹴りを繰り出す。男は脇腹を抑えながら転倒した。土手をごろごろと転がって、その体は川面すれすれで止まったあと、ぐったりとしていた。
「大丈夫か!?」
見間違えるはずがない。呆然と立ち尽くすフィアナに駆け寄ってきたのは、やはり場所が場所なだけに顔は見えにくいがノクティスだった。
お礼の言葉を述べようとした瞬間、一気に気が緩んだフィアナはその場に崩れ落ちた。
咄嗟にフィアナの上半身を支えたノクティスは携帯を取り出して「イグニス」と書かれた電話番号に発信した。
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