〜 02 〜
月日は経って、中間テストが近づいてきた。
フィアナはその間に何度も何度もノクティスに話しかけ、何度も何度もあしらわれていた。しかし、諦めることはしなかった。
名前くらいは覚えてくれただろう、と自分の中で満足する。
ただ、問題は中間テストだ。
ノクティスに夢中になりすぎた結果、辛く苦しい戦いになることは明らかになっていた。後悔していないといえば嘘になるが、高校生活最初のテストでコケたくはない。
ノクティスの背中を見守りながら、フィアナは勉学に打ち込むことにした。
その日の昼休み。
ノクティスのパーソナルスペースに唯一立ち入ることを許されている金髪の男子は“プロンプト”という名前だということが判明したのは結構前の話だが、そのプロンプトがいつものようにノクティスに話しかけ、教室外で昼食を取ろうと席を立ったところで事件は起きた。
「あ、そうだプロンプト。これ食う?」
「ん、なになに?」
ノクティスが鞄から取り出したのは、シンプルな白い紙袋だった。
プロンプトが差し出されたそれを受け取ると、中身を確認するなり「わあっ」と声を上げる。
「美味そうなケーキ!…でもどしたのこれ?」
「あいつが作ってくれたんだよ。勉強に集中するなら甘い物を〜とかなんとか言って」
「ほえ〜」
間延びしたプロンプトの声を最後に、ノクティスが教室から姿を消したため、そこから先の会話は聞き取れなかった。
否、教室にいてもきっと聞き取れなかっただろう。
(手作りのお菓子…!?作ってくれた人って、メイドさんとかそういう人じゃないっぽい…!?もしかして彼女…!?ありえる…!!)
頭の整理がつかなくて、完全に自分の世界へ入ってしまった。
話をする限り(とは言ってもほとんど一方的だが)、ノクティスは一人暮らしで、食事もほとんど外食または自炊らしい。学校でも購買を利用している姿を見かけたことがある。毎日の昼食は購買で済ませているのだろう。彼女がいるならお弁当くらいは用意してきそうだが…。
そのノクティスが自分の鞄から料理を、しかもそれが甘いお菓子だというのだから、考えなくていいことまで考えてしまう。
悶々としていると、ここ数日で出来た友達が昼食に誘ってくれた。考えるのを一旦やめて、フィアナは席を立った。
そして放課後。
プロンプトがノクティスを呼ぶとノクティスはいつもの生返事をして教室を出た。
テストが近いからか、ノクティスの周りに女子が集まる頻度も少ない。自分もそのうちのひとりだが。
昼休みの事件以来、考えていたことがある。
財布の中身を確認してから教室を出て、下駄箱で靴を履くと、いつもと違う道を歩いた。
「一か八か、やってみるしかない…!」
新たな決意を内に秘め、フィアナは目の前まで迫った大きな建物に入った。
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