〜 18 〜
長期休みが終わって、何度目かの休日の日。
夕方、予定を済ませたフィアナは外に出ると雲行きの怪しい空模様に不満の声を漏らした。天気予報ちゃんと見ておくんだった、と後悔しながら降り出さないうちに帰ろうと駅がある方向へ向かって走り出したとき。顔に水滴のような冷たいものが当たったことを皮切りにポツポツと雨が降り出して乾いていたアスファルトはあっという間に水を含んだ真っ黒なものへと変化した。雨足は徐々に増して行き、終いには数メートル先も見えなくなるほどの濃い霧と共に豪雨がフィアナの行き先を遮断する。
「うっそー!?なにこの天気ー!!」
持っていた鞄を頭上に持っていき、お情け程度に雨から身を守るが勿論そんなものは効果なんてものを発揮するわけもなく。抵抗も虚しくどんどん水を吸収する衣服を投げ捨てたいと思っていたときだった。
「フィアナ!」
「…王子!?」
突然名前を呼ばれて顔を上げると目の前には傘をさして驚いたようにフィアナを見るノクティスがいた。お互いがお互いに距離を詰めるとノクティスはフィアナを傘に入れてやり、フィアナは頭から鞄を下ろす。顔にまとわりついた髪の毛を払いながらたっぷりと水を吸い込んだ服の裾を絞り、それを見ていたノクティスはポケットからハンカチを取り出してフィアナに差し出した。
「なんでお前、傘もささねーでこんなとこにいんだよ」
「お父さんの職場に行ってたの。あと天気予報見てなかった!」
清々しいくらいに開き直るフィアナはハンカチをありがたく受け取ると水が滴ってくる髪の毛や首元を拭き、というか、と口を開いた。
「王子もなんでこんなとこにいるの?」
「いや俺んちの近くだし」
ノクティスが指をさした方向を見ると霧に紛れて見辛いが確かに見覚えのある建物が見えてフィアナは、ああそっかと声を出した。バイト帰りか何かなのだろう、私服姿のノクティスを見てお疲れ様と笑うとノクティスは適当な返事をする。
「寄ってけよ。シャワーくらいなら貸すぞ」
「か、傘貸してくれればいいよ!帰るよ!」
「あっそ、じゃあそのスケスケな服のまま電車乗るんだな〜」
言われて初めて、ジャケットの下に来ていたシャツが服にへばりついていることに気付いたフィアナは慌ててジャケットを手繰り寄せた。ふっ、と鼻で笑ったノクティスが背を向けて歩きだして傘から出そうになったところで、フィアナは「う〜〜〜」と声を上げながらノクティスへついて行くことにした。
シャワーを浴び終えて着ていた衣服をパックに入れて鞄へ詰めてからノクティスから借りたシャツに腕を通すと、普段使っているものとは違う柔軟剤の香りが身体を包み込んでフィアナは男の人の家に上がり込んでシャワーを浴びるなんて、まるで彼女みたいだ、と急に自分のやっていることが恥ずかしくなった。同時にちょっと嬉しくなっている自分の心に釘を刺しながら、急いで髪の毛をドライヤーで乾かすと脱衣所を出てリビングへ向かった。
「王子、シャワーありがと」
「ああ」
ソファの上で雑誌を読んでいたノクティスは顔を上げると同時に時計を見た。夕飯どうすっか、と呟いたノクティスの横顔を見て、フィアナは首をかしげる。
「イグニスさんは来ないの?」
「ああ、毎日ってわけじゃねーからな」
「じゃあ、私が作るよ」
「え、いいのか?」
「任せて!」
意気込んでキッチンに向かうと、立ち上がったノクティスもキッチンを通って冷蔵庫に向かうと中を確認した。なんもねーけど、と言って振り返るノクティスの横に並んで冷蔵庫の中を確認すると、十分だよ、と言ったフィアナは袖を捲って料理に取り掛かった。
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