〜 14 〜
コンビニで食事を済ませたあとノクティスに家まで送ってもらい、マンションの前で別れようとしたところで大事なことに気付いたフィアナは慌ててノクティスに声をかけようと歩いて行った方向に顔を出した。腕時計を見ると時刻は既に0時を回っている。
「王子!ちょっと待って!」
「あ?どした?」
立ち止まって振り向くノクティスに駆け寄りながらスマホを取り出してとあるページを開くとああやっぱり、と声を零すフィアナにノクティスは首をかしげる。
「終電、もう出発しちゃった」
「げ…そっか、忘れてたわ…」
スマホの画面に表示された電車の時刻表を見せると、ノクティスはしまったという顔をして頭をかいた。少しのんびりしすぎたようだ。歩いてる最中もそうだったが、ノクティスはずっとあくびをしていた。このまま別れていたら駅のホームで終電がないことを理由に雑魚寝でもし始めるのではなかっただろうか、と思うとゾッとする。ノクティスならやりかねない。
「迎えに来てもらいなよ」
「んーそうだな」
おぼつかない手取りでスマホの画面を開くノクティスに起きて起きてと声をかけるが、生返事ばかりで本当に正しい画面を開けているのかと不安になり代わりに電話しようかと思うがいらぬ心配だったようで、電話帳を開いてスマホを耳に持って行くとノクティスはまたあくびをしながら相手が電話に出るのを待った。
「…もしもし?迎え来てくんねー?」
ノクティスは重そうな瞼を必死に開きながら現在地を電話の相手に教えている。無事に迎えを呼ぶことが出来てほっと一息つくとノクティスはどっか座れる場所ねえ?とフィアナに質問した。少し歩くが近くにバス停がある、と言い終わる前に事件は起きた。
「ちょっ、ちょっと!?王子!?大丈夫!?」
突然ノクティスがフィアナの肩にもたれかかってきた。具合でも悪いのか、と聞くが返事はない。代わりに寝息のようなものが聞こえてきて、フィアナは更に慌てるが慌てたところで現状は変わるわけでもなく、ノクティスの体重を支えきれなくてその場に崩れ落ちそうになるのを必死で耐えた。無理な体勢でどこか痛めてしまいそうだ、と思ってノクティスの肩を押すがビクともしない。そこで違和を感じたフィアナはノクティスの露出した首元を触った。
「熱がある…」
自分の手が冷えていることも関係していそうだが、そこは異常なまでに熱を持っていることに気が付いてフィアナはすぐさま安静にさせらるようにその体を支えながらその場へ腰を下ろした。羽織っていた薄手のカーディガンを脱いでノクティスにかけると、その寝息に似た吐息は段々と荒々しさを増して行った。早く迎えに来て…と自分の太ももを枕にして眠るノクティスの顔にかかった髪をかきあげてやりながら祈るようにして待っていた。
やがて遠くにライトを灯した高級車の姿が見えて、フィアナは居場所を示すように大きく手を振った。目の前で止まった車を運転していたひとりの男性が異常事態に気付いたのか驚いた様子で運転席を降りる。
「熱があるみたいなんです!やけに眠そうだなって思ったら、急に倒れて…」
「わかりました、すぐに休ませましょう」
男性は後部座席の扉を開けてから出来るだけ安静にノクティスを抱えると、リアシートに
座らせてから扉を閉めた。その表情はとても苦しそうで、辛そうだ。眉をひそめてその様子を見守っていると男性がフィアナに近寄った。
「ところで、あなたは?」
「王子の、同級生です」
「そうでしたか。少しの間、ご同行願えますか?」
「は、はい!」
言われるがままに車へ乗り込むと、辛そうな表情のままノクティスがふと瞼を持ち上げてフィアナを向いた。膝貸すよ、と声をかけるとノクティスは声にならない声で「わりぃ」と言ってフィアナの膝へ頭を置いて再びその瞼を下ろす。
揺れることなく静かに動き出す車の中で、フィアナはスマホを取り出して両親宛に「しばらく帰れないかも」というメッセージを残して電源を落とした。
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