〜 13 〜
買い物を済ませてしばらく店内で待っていると、私服に着替えたノクティスがマスクと眼鏡をしたままの姿で裏から出てきた。フィアナが手にぶら下げているレジ袋を見るなりなんなり、もう買ったのか、と言ってフィアナの横を通り過ぎると自分の買い物を慌てて済ませて戻ってくる。店内に設置されたテーブル席に座るよう促されるとノクティスはそこで購入したものを広げ始めた。一緒に食べるのか、と少し戸惑いながら横に座って同じようにレジ袋から弁当を取り出す。マスクを外して炭酸水を口にしているノクティスを見てフィアナはそっとその横顔に話しかけた。
「王子、こっち向いて」
「ん?」
特になにも疑うことなく素直にフィアナを向いたノクティスの顔には縁の黒いビッグフレームの伊達眼鏡がかけられたままで、元々小顔なノクティスにはかなり不釣り合いに見える。眼鏡似合うね、と言えばそりゃどーも、と適当な返事が返ってきて、何故ビッグフレームなのか、と問えば視界に縁が入るのが嫌だからだという。
「しかし王子様がコンビニでバイトするなんて話聞いたことないよ」
「うっせ」
「生活費とか、国が負担してくれるんじゃないの?」
「んーまあそうなんだけど、遊ぶ金くらいは自分で稼ごうって思ってな…」
偉いね、と誰に投げかけるわけでもなくぽつりと呟くと、ノクティスはいいから早く食っちまえよとフィアナの弁当を指さした。大方、社会をもっと知った方がいいという理由をつけたイグニスの指示かなにかなのだろう。怒られているノクティスの姿が容易に想像できてフィアナは小さく笑った。封の空いていない緑茶のキャップを取ろうと握って、しかしなかなか開こうとしないそのキャップにフィアナはグッと力を込めたがビクともしなかった。それを見たノクティスが貸してみ、とペットボトルをフィアナの手から受け取ってキャップを捻るが、ノクティスの力でもキャップは全く動こうとしない。
「なんだこれ、不良品か?」
キャップの側面にある凸凹に摩擦で指を痛めたのか左手を上下に振ったあと、ついには立ち上がってそのキャップと格闘し始めたノクティスを見てフィアナはそんなに…?と疑問を持ち始める。その瞬間、パキパキと乾いた音を立てたと思いきや急にキャップが開いて中身が勢いよく飛び出してしまった。二人の短い悲鳴と共に磨かれた床が水浸しになる。濡れてないか?とフィアナはノクティスに心配されたが、この状況では被害を受けるのはどう考えてもノクティスであることに違いない。大丈夫、と返事をしながらフィアナはノクティスの服が濡れていないか確認した。
「マジでなんだこれ。これと同じ他のやつも見たほうがいいんじゃねーの」
「そうだね…苦情来るかも知れないし。とりあえずありがとう王子」
「ん。あ、でもこれ一応店長に渡してくる。返金するわ」
そう言うとノクティスはその緑茶を片手に裏へ入っていってしまった。バイト先でも色々とやらかしてしまうし、ペットボトルには嫌われてしまうし、なんて日だ、と忘れていた疲れがドッと押し寄せてくる。頭を抱えたい気持ちになっていると、店長と書かれた名札を付けている男性が裏から出てきて謝罪の言葉と共に緑茶の代金を手渡しされた。掃除用具を両手に抱えて出てきた店員が濡れている床をホコリもたてずササッと綺麗にしてしまう。
一礼をして背中を向ける店員と入れ替わるようにして戻ってきたノクティスの手にはさきほどの物とは違ったデザインのラベルが貼られているペットボトルが握られていた。
「わりい、これでよかったか?」
「ええ!?そこまでしてくれなくても…!」
「俺からの侘びってことで」
どこまでいい人なんだ、と感激しながら受け取らないわけにもいかない空気の中お辞儀をした姿勢のままそのペットボトルを受け取ると、ノクティスはどこか満足気な様子で再び席についた。
ようやく弁当を開くと、様々なおかずの香りが鼻をついて一気に食欲が増したフィアナは割り箸をビニール袋から取り出すと両手を合わせていただきますの挨拶をする。ノクティスもそれに合わせて一言挨拶をしてから割り箸を割った。
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